激しい痒みが特徴の犬のマラセチア外耳炎の原因、治療、予防法【ペットアドバイザー執筆】

犬のマラセチア外耳炎について

執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)先生

元動物看護師、ペットアドバイザー

疾患の概要

【外耳炎とは】

外耳炎は文字どおり、耳に炎症を起こす疾患です。犬が最もかかりやすい病気の一つだと言われています。
耳は、脳に近い「内耳」、鼓膜などがある「中耳」、外側から目で見ることができる「外耳」に大きく分けられますが、そのうち耳の入り口から鼓膜までの間の「外耳」と呼ばれる部分に起こる炎症を「外耳炎」と呼んでいます。

なりやすいとされる犬種は
・コッカースパニエル
・キャバリアキングチャールズスパニエル
・シーズー
・トイプードル
・フレンチブルドッグ
・柴犬
・ウエストハイランドホワイトテリア
・ダックスフンド
・ゴールデンレトリーバー

と言われています。
いずれも耳の毛が長かったり、耳の中の毛が密集していることで穴が塞がり、炎症を起こしやすい犬種です。また特有の体質により脂っぽい耳垢を出しやすい犬種でもあります。長い毛や耳が外耳を塞いでいるため風通しが悪くなり、炎症はますます悪化してしまいます。

また皮膚に脂分が多い「脂漏体質」でなくても、与えるフードの質の低下や油分の多いおやつの与えすぎなども原因となる事が多いです。犬種の特徴や体質によって、外耳炎のなりやすさも変化することを覚えておきましょう。

【マラセチア外耳炎】

マラセチア外耳炎は、マラセチアという酵母菌が原因となり引き起こされる病気です。酵母菌は真菌の一種ではありますが、犬の常在菌として常に皮膚に存在しています。この常在菌は何らかの問題によって爆発的に増殖することで悪さを働き、外耳炎になってしまうのです。特に耳は風通しが悪く閉塞した状態です。これにより部分的に細菌が蔓延することになります。

外耳炎は原因がさまざまあり、必ずしもマラセチア由来とは限りません。症状を確認したらまずは原因を突き止めるべく、悪化しないうちに動物病院で検査をおこないましょう。

症状

マラセチア外耳炎の主な症状です。

・激しいかゆみのため耳周辺を掻きむしる
・かゆみと違和感のため頭を何度も振る
・耳の悪臭
・濃い茶色の耳垢が出る
・かゆみのある耳を傾ける
・耳だれ
・耳を触らせなくなる、触ろうとすると怒る
・耳の赤い炎症
・耳からのフケが増える

初期症状は外耳内の赤い炎症から始まります。耳の検査をする時の器具が当たっただけで、内部がうっすらと赤くなってしまうほど、耳は本来敏感な器官です。ですが普段の生活で耳の内部を見ることが難しいため、飼い主はこの程度の症状では外耳炎に気付きません。マラセチア特有の症状が出始めて、やっと気が付くことが多いのです。

マラセチアの特徴は、とにかく激しいかゆみが出ることです。足で何度も掻きむしり、そのために耳の皮膚が傷ついてさらに感染が起こりやすくなります。また耳の外側の皮膚の中が内出血する「耳血腫」にもなりやすくなりますので、症状が複数出てくることもあります。

さらに耳掃除するたびにベタっとした茶色の耳垢と、強いにおいに悩まされるようになります。この耳垢は脂漏体質の犬種に多く見られます。加えてマラセチアは皮膚の脂をエサとしているため、外耳の皮脂の分泌がさかんになり、ベタベタとした皮膚症状が出やすくなります。

外耳炎とはいっても、症状が悪化すれば中耳にまで炎症が広がることがあります。鼓膜は中耳と外耳の境目にありますが、中耳にまで炎症が達すれば鼓膜に穴が開くこともあります。これが「中耳炎」という状態です。

中耳炎を発症してしまうと、当然外耳炎も治りにくくなってしまいます。悪化させないためにも、早めの受診を心掛けましょう。

原因

原因となる菌はマラセチアという細菌です。酵母菌という真菌の一種であり、常在菌として常に皮膚に存在しているこの細菌が、ある条件により爆発的に増えたために症状を引き起こします。

家庭内で原因となるのは次のような場合です。

気温や湿度が高い状態で飼育されている

犬の耳の中は非常に細く狭い構造です。蒸れやすく細菌にとって好条件となるため、湿度が加わるとさらに繁殖しやすい環境となります。それは耳の病気だけでなく皮膚病が発症しやすい条件にもなりますので、飼育されている環境にも気を遣いましょう。

耳の手入れを怠っている、誤った耳掃除

耳垢は少なからず分泌されてしまうものですが、定期的なお手入れで取り除いていれば問題ありません。しかし耳垢が溜まったままで放置したり、お手入れの方法が分からず耳垢を奥へ押し込むようにしている場合は、かえって逆効果。耳の中の状態はどんどん悪化していきます。正しい耳のお手入れを飼い主が知らないことも、大きな原因となります。

体質に合わないフード

現在販売されているドッグフードは実にさまざま。しかし体質にあったもの、良質なものばかりではありません。まずは「プレミアムフード」と呼ばれる良質なものを選びましょう。動物病院で販売されているものであれば間違いありません。

そして体質に合っているかを確かめましょう。犬種特有のものやその犬だけの体質などさまざまですが、一度動物病院で相談するとよいでしょう。特にマラセチアは「皮膚の脂分をエサにする」という性質がありますので、油の多い食餌はマラセチアを増やすリスクが高くなります。

もちろんフードだけでなく、おやつも同じです。良質で油分の少ないおやつを選びましょう。

水遊びの多い環境

これは湿度にも関係することですが、水遊びは皮膚の油分を洗い流し、バリア機能を低下させる場合があります。加えて耳の中に水が入り、耳道が蒸れやすくなりますので、マラセチアの繁殖しやすい環境になってしまうのです。水遊びの好きな犬もいますので、遊ばせるときは全身の乾燥までしっかりおこない、一緒に耳のお手入れもおこないましょう。

治療法

検査

外耳炎症状の原因はさまざまです。検査によってどのような原因かを探り、治療法を決定していきます。
外耳炎は細菌、真菌、耳ダニ(耳カイセン)、アレルギー、腫瘍、異物混入など、小さなことがきっかけで発症する場合が多いため、原因が複数となることもあります。

まず初めに「耳鏡」という耳の中を拡大して観察する器具を入れて目視確認します。目視でドクターが耳垢の量や色、においに問題を感じた場合は、耳垢を取り出して「顕微鏡検査」をおこないます。寄生虫や細菌などの発見のために耳垢を顕微鏡で目視して観察するもので、耳鏡と同様に日常的に行われています。ここで異常が発見されれば初期のうちにマラセチア外耳炎の治療にとりかかれるでしょう。

マラセチアは、専用の染色液で耳垢の染め出し、色の染まり方によって特定します。白く細長いものが検出されればそれがマラセチア菌です。一度耳の状態が悪くなると、他の疾患を併発しやすくなります。他の原因となる寄生虫や症状はないかを確認したのち、マラセチア外耳炎の治療が開始されます。

治療

マラセチアによる外耳炎の特徴は「激しいかゆみ」があること。ですが掻きむしりによる悪化が懸念されるため、「まずかゆみをとること」が最初の治療となります。同時に内服薬や塗り薬などを使用して治療をおこないます。

症状が軽度の場合は、耳の中に垂らして使う点耳薬を処方され、お手入れしながらの治療となります。点耳薬は鼓膜付近にある固まった耳垢を溶かして、外に流し出す作用があります。地道な耳掃除が必要となるため、1日も欠かさず毎日繰り返さなければならないのは、治療費よりも手間や精神的な負担となることが多いでしょう。またお手入れの仕方が悪いために発症した場合は、お手入れの方法を飼い主が学ばなくてはなりません。

外耳炎が重度となると、さらに治療が増えます。点耳薬の他に内服薬を使用し、期間も1か月ほどかかります。内服薬は「ケトコナゾール」などの抗真菌剤です。同時に同じ抗真菌剤が含まれたシャンプーで薬浴をおこないます。

長期の内服の他にも、かゆみ止めのステロイド剤を外耳に塗布し続けます。ステロイド剤を長期にわたって使い続けると、他の体調面に影響が出る場合もあります。何日もかかる治療となるため、他の疾患の有無も合わせて、調整しながらの治療となります。

耳を掻きむしった足先にまで感染を起こしている場合もありますので、家庭内では足先をかゆがってなめていないかもチェックしましょう。犬のクセやしぐさを観察しておくだけで、疾患の予防にもなります。

マラセチアの治療中は定期的に動物病院に通うことにもなるため、費用や時間の負担が多く、飼い主も犬もストレスのたまりやすい、治りにくい病気です。長くかかることも、再発することも珍しいものではありません。タチの悪い疾患だけに、早期発見に努め、軽度のうちに治してしまいましょう。

予防法

マラセチア菌は皮膚の常在菌ですから、完全に殺菌することができません。菌の繁殖をおさえるために、健康に日頃から気遣い、維持することが一番なのです。また正しいお手入れを身に着け、定期的におこないましょう。日本人は耳掃除が好きな人種と言われていますが、犬と人間の耳掃除の頻度はけして同じではありません。また方法も違うものです。

自分だけの感覚で行うと、かえって傷つけて炎症を起こす可能性がありますので、動物病院で指示された方法や頻度でお手入れをおこないましょう。

もしスパニエルやシーズーなどの、耳道が狭く蒸れやすい犬種であれば、予め「外耳の切開手術」を受けておくのも良い予防方法です。これは外耳道を切開することで広げ、お手入れしやすくしておく処置です。病気の予防に効果を発揮しますので、耳の長い犬は検討してみる価値があります。

もし外科的な処置に抵抗があるなら、トリミングルームへ定期的なお手入れに出すのが良いでしょう。トリマーによる外耳裏の脱毛や耳垢の除去など、家庭ではやりにくいお手入れをおこなってくれます。プロ用の薬品を用いるため、耳の奥まできれいに仕上げてくれます。また耳垢を見てアドバイスをくれますので、疾患の早期発見にもつながります。

なにより大切なのは、家庭内でのチェックです。耳垢の有無や色、においなど、直接触れなくても分かることがたくさんあります。またしぐさもチェックしておくとよいでしょう。頻繁に頭を振ったり耳を掻いたりするのは、外耳炎の症状の可能性が高いのです。症状が進むと、かゆみのための耳をこすりつけることもありますので、日頃の行動をよく観察しておくことが大事です。

マラセチア外耳炎についてまとめ

マラセチア外耳炎は、皮膚炎と同様に、皮膚の常在菌が原因となる疾患です。完治するまでには時間がかかり、再発することもしばしば。だからこそ動物病院での定期的な健康診断を受け、正しいお手入れをしましょう。早期発見は犬だけでなく、飼い主の負担も減らすことができます。気になる行動があれば、早めに動物病院でチェックを受けましょう。

執筆者情報:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。

専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。