犬の皮膚糸状菌症の症状と治療、再発予防とハーブ温湿布のススメ【動物看護士執筆】

犬の皮膚糸状菌症について

執筆者:ナルセノゾミ先生

動物看護士、愛玩動物飼養管理士

「あれ?よく見ると脱毛してる・・?」
愛犬の被毛の一部が薄くなっていたり、脱毛を発見すると心配になりますよね。

犬の脱毛症状で疑われる皮膚病の1つが、皮膚糸状菌症です。
人や他の動物に感染することもあるので、ワンちゃんと暮らす人には特に知っておいてほしい病気です。

皮膚糸状菌症の症状や検査方法、治療例、予防対策や、改善を助けるハーブ温湿布などをご紹介します。

皮膚糸状症はカビ(真菌)による感染症

皮膚糸状菌はカビの一種です。
キノコや酵母などと同じ「真菌」に分類され、爪、皮膚の角質、被毛といったケラチンを好む性質があります。

皮膚糸状菌症に感染すると、円形脱毛症やフケの発生などが見られます。

この病気は、人や他の動物にも感染する人獣共通感染症。
猫が感染することが多いことから、猫カビと呼ばれることもあります。

ハムスターやウサギなどの小動物だけでなく、人から人へも感染する恐ろしい皮膚糸状菌。

抵抗力の弱い子犬や老犬、抗がん剤や免疫抑制剤を投与している場合も感染リスクが上がるため、特に注意してあげたいですね。

皮膚糸状菌症の症状と特徴

皮膚糸状菌に感染している場合、段階的な症状がみられます。
かゆみや脱毛が無い場合は気づきにくく、その場合は発見が遅れてしまいます。

日頃から皮膚や被毛の状態をチェックし、些細な変化に気づけるようにしておきたいですね。

フケの発生

皮膚糸状菌に感染した箇所には、フケが見られることがあります。

しかし、フケは健康でも一時的に出ることがありますし、季節的な乾燥、フケが出やすい体質のワンちゃんもいます。
少しのフケでは、飼い主さんもあまり気にしないことが多いのではないでしょうか。

皮膚糸状菌症は、特に皮膚のやわらかい部分に感染していることが多いため、顔まわりや耳周辺、お腹などはよく注意して見ておきましょう。

円形脱毛ができる

皮膚糸状菌が角質の奥や毛根の中まで入り込むと、感染した毛は切れやすくなります。
そのため、かゆみがなく犬が掻いているわけでなくとも円形状に脱毛してしまうのです。

最初は小さな脱毛ですが、放っておくと脱毛箇所が少しずつ増え、全身に感染が広がることも。

かゆみが無くても、皮膚糸状菌症に感染していれば、飼い主さんや他の動物への感染源となってしまうので、脱毛箇所を見つけたらすぐ動物病院に連れていきましょう。

皮膚の赤みやかさぶた

脱毛箇所やその周辺には、皮膚の赤みやかさぶたが出来るようになります。
全身を被毛に覆われているため、犬の皮膚の色をしっかり確認することは、意外と少ないですよね。

こうした症状に気づいてあげるためにも、毎日の健康チェックでは、被毛をかきわけて通常の皮膚の状態を知っておくことも大切です。

かゆみが無いこともある

犬がかかる皮膚病にはさまざまな種類がありますが、皮膚糸状菌症は、必ずしもかゆみが伴うわけではありません。

脱毛やフケなどの皮膚症状以外、犬にとって不快な症状が無い場合は、発見が遅れたり様子見をされるケースがよくあります。

皮膚糸状菌は一度感染すると完治までに時間がかかることも多く、根気よく治療を続ける必要がありますから、早期発見が1つのカギとなります。

皮膚糸状菌症の検査方法

皮膚糸状菌症の症状は、他の皮膚病と似ている点が多くあります。

症状だけで皮膚糸状菌症であると診断することが難しいため、段階的に検査して治療する必要があります。

皮膚糸状菌症が疑われる場合の検査方法の一例をご紹介します。

紫外線で皮膚糸状菌を目視する【ウッド灯検査】

ウッド灯検査は、暗室で体に紫外線を当てることで感染箇所を光らせて確認する検査です。

しかし、糸くずやホコリなども紫外線に反応することがあるため、簡易的な検査ですが、検出率は5割ほどと言われています。

テープで皮膚表面を採取する【顕微鏡検査】

セロテープで皮膚表面の菌を採取したり、被毛を溶液につけての顕微鏡検査です。

見えにくいこともありますが、多くの動物病院で取り入れられている一般的な検査方法になります。

フケ、被毛採取で菌を増やして確認する【培養検査】

ウッド灯検査、顕微鏡検査でも検出されず、他の皮膚病の疑いが無くなった場合など、治療しながら培養検査を行うこともあります。
菌が繁殖しやすい培地に、フケや被毛を乗せ増えた菌を顕微鏡で確認する検査方法です。

培養には7~10日かかるため、検査結果は後日伝えられます。

皮膚糸状菌症の治療と対策

皮膚糸状菌症は、症状の重さや皮膚症状が出ている箇所に合わせて治療を行います。

命に関わる病気ではありませんが、皮膚糸状菌症は一度かかると完治までに時間がかかるケースも珍しくありません。

ワンちゃんに合った治療を、完全に皮膚糸状菌がいなくなるまで続けることが大切です。

内外薬の投与

抗真菌剤の薬を飲ませたり、軟膏を塗ることが一般的です。
内服薬としてはイトラコナゾール、グリセオフルビンなどが処方されます。

症状が軽度の場合は外用薬のみで治療を行うこともありますが、犬が舐められない顔まわりや耳に症状が出ているときに使われるケースが多いです。

抗真菌効果のある薬浴(シャンプー)

皮膚糸状菌は、被毛や皮膚の表面から入り込むため、抗真菌効果のある薬用シャンプーでの治療があります。

薬浴をすることで、体についた皮膚糸状菌を洗い流すだけでなく、菌の繁殖を抑える効果があります。
薬浴は2~3週間に1回ほど定期的に行います。

犬の生活環境を清潔に保つ

目に見えないだけで、皮膚糸状菌をはじめ私たちの周りには菌類が無数に存在しています。

いくら薬やシャンプーで治療していても、ワンちゃんの体から落ちた皮膚糸状菌がある環境では治療も難航しますよね。

抜け落ちた被毛やワンちゃんが体を付けた場所には、皮膚糸状菌が付着しています。

ほこりや毛は掃除機でこまめに吸い取り、カーペットなども天日干しして清潔を保ちましょう。
フローリングであれば雑巾がけも効果的です。

自宅でできる植物療法、ハーブ温湿布

皮膚炎には、自宅で簡単にできるハーブ温湿布でのケアがおすすめです。

ハーブをパックに入れお湯で抽出し、人肌に冷まします。
そのハーブティーにタオルを入れて絞り優しく患部に当てるだけ。

冷めてきたら再度温かいハーブティーの中にタオルを入れ、絞って当てることを繰り返します。
ハーブ温湿布には、血行促進、リラックス、保湿などの効果が期待できます。

ハーブにより効能もさまざまですが、皮膚糸状菌症には、抗真菌効果が期待できるエキナセア、バードックなどおすすめです。

市販されているティーパックは他のハーブや砂糖などが入っていることもあるため、ブレンドされていないハーブを購入し使用しましょう。

皮膚糸状菌症の再発を防ぐ方法

糸状菌は乾燥環境であれば、付着してから数年は感染力を持っていると言われています。

一度感染し発症すると、改善と再発を繰り返し続けるケースもあり、完治後も再発しないように注意しましょう。

もちろん、皮膚糸状菌症ではないワンちゃんと暮らしている場合も、予防のために行ってあげてくださいね。

ブラッシングで血行を良くしよう

ブラッシングの役割は、毛並みを整えるだけのものではありません。

ブラッシングすることで血行がよくなり、ターンオーバーを促します。
さらに、被毛や皮膚についたフケや、見えない汚れを落とす効果もあります。

ブラッシングが嫌いなワンちゃんには、シリコン製の肌ざわりがソフトなマッサージブラシを使ってみましょう。

皮膚・被毛の状態を確認しながらスキンシップも取れるので、被毛が短いワンちゃんでもブラッシングの習慣をつけるといいですね。

定期的なシャンプーで清潔に

清潔を保つためにも、定期的なシャンプーをしましょう。
ブラッシングだけでは落としきれない汚れも、シャンプーなら洗い流すことができます。

とはいえ、頻繁なシャンプーも禁物。
かえって皮膚の状態を悪くしてしまうこともあるため、月に1~2回ほどがベストです。

犬用シャンプーはさまざまな種類が販売されています。
皮膚や被毛のコンディションを保つために、愛犬の体質に合わせてシャンプー剤を選びましょう。

洋服の着せっぱなしは厳禁

抜け毛防止や汚れ防止、保温対策などで、愛犬に洋服を着せる飼い主さんは多いですよね。
一昔前に比べ、洋服を着ているワンちゃんは珍しくなくなりました。

しかし、一着の洋服を何日も着せっぱなしにしている場合は注意が必要です。
特に、皮膚糸状菌症は、真菌が付着し続けると発症のリスクが上がってしまいます。

洋服はこまめに着替えさせ、洗濯も忘れないようにしましょう。

ストレスを溜めない

適度な運動やスキンシップで、愛犬のストレスを溜めないように心がけましょう。

皮膚糸状菌症とストレス、何が関係しているのかと思うかもしれませんが、皮膚糸状菌症には免疫が低下している状態で感染することが多いのです。
ストレスを感じると免疫機能が低下するため、皮膚糸状菌だけでなく、あらゆる病原菌が侵入しやすくなってしまいます。

ストレスを溜めない生活を送ることが、愛犬の健康に繋がります。

皮膚糸状菌症は治せる!

皮膚糸状菌症そのものは命に関わる病気ではありませんが、免疫が低下している可能性や、それにより他の病気にかかっている可能性もゼロではありません。

免疫が低下していることがわかれば、皮膚糸状菌症の発症をキッカケに免疫を高め、他の病気の予防に繋がるかもしれません。

皮膚糸状菌症は無症状であるケースも多く、知らないうちに愛犬が病気の感染源になってしまうことも。
そのため、日ごろから愛犬の健康チェックを心がけることが大切です。

真菌は一度感染すると手ごわい存在ですが、根気よく治療を続けていれば治すことが出来ます。
感染を拡大させないためにも、気になる症状があったら早めに動物病院に相談しましょう。

執筆者:ナルセノゾミ先生
動物看護士、愛玩動物飼養管理士

仙台総合ペット専門学校で、動物看護・アニマルセラピーについて学ぶ。
在学中は動物病院・ペットショップの他、動物園での実習も経験。
犬猫、小動物はもちろん、野生動物や昆虫まで、生粋の生き物オタク。
関わる動物たちを幸せにしたい、をモットーに活動しているWebライター。