繰り返す犬の指間炎(趾間皮膚炎)の原因、治療法と6つの予防法【ペットアドバイザー執筆】

犬の指間炎について

執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

元動物看護士・ペットアドバイザー

疾患の概要

犬の指間炎とは、足の肉球や、指と指の間のまたの部分に起こる炎症を指していいます。趾間皮膚炎(しかんひふえん)と呼ばれることもあります。

なりやすいとされる犬種は
・ミニチュアダックスフンド
・ゴールデンレトリーバー
・パグ
・フレンチブルドッグ
・コッカースパニエル
・シーズー
・柴犬
と言われています。

主に長毛種で、パット(肉球)の周辺やその間の毛が長くなりやすく、定期的なカットが必要な犬種に多くみられます。また短毛種であっても、体質的に皮膚が脂っぽくなりやすい犬種は、マラセチア皮膚炎などの細菌性皮膚炎になりやすいため、指間部の炎症が起きやすいとされます。

指間炎の原因はさまざまですが、ひとつの原因につき、なりやすい犬種が複数挙げられますので、多くの犬種が指間炎になりやすいと言うことができます。また体質以上に、飼育環境や散歩の習慣などでもなりやすさは大きく変わります。つまり飼い主が気を付けていれば防ぐことも十分にできる疾患なのです。

症状

主な症状です。
・赤く腫れる
・重度の場合膿が出てくる
・違和感があり盛んに舐める
・ぷっくりと腫瘍のようなものができる
・長く続くとストレスになる
・細菌が繁殖し、足全体に広がる

指間とは、指の間や水かきの部分などを指します。症状が重度になると足全体に広がるため、肉球の異常にもつながります。肉球は歩く時に道路や床に触れる唯一の部分として、本来ケガの多い部分です。毛が生えておらず、むき出しになっている部分ですので、普段から乾燥しないようクリームを塗ったりお手入れをしておく必要があります。乾燥や肌荒れのような状態が続くと、硬くカサカサになり、傷つきやすくなってしまいます。

肉球が傷ついてしまうと感染が起こり、そこからさまざまな問題を引き起こしてしまいます。特に指間部が飼い主の目がなかなか届かないところですから、普段からひび割れや鋭利なものによるけがに注意が必要です。

原因

指間炎になる原因となるのは、以下のとおりです。

①外傷
②汚れによる炎症
③やけど
④爪の炎症
⑤ストレス性
⑥皮膚炎
⑦感染症

①外傷 ②汚れによる炎症 ③やけど
飼い主が気付かない異常の中でも、外傷が最も多い原因です。散歩中に小さな異物が指間に入り込んだり、夏場に道路やマンホールなどが熱を帯びていて、やけどをしてしまうケースです。大きなケガでない限りは血が出ることもないので、目視しても飼い主が気付かないことが多いですが、肉球に傷がつくことは日常的にあります。

また小石や鋭利なものによる指間部の傷も、気が付かないうちに付いていることが多いのです。軽いものであれば治ってしまいますが、中には犬が舐めることでジメジメした状態になり、悪化していくケースもあります。そのため散歩する時間帯や気候、気温などを充分に考慮しなくてはなりません。

「犬には散歩をさせなくてはならない」と思い込んでいると、暑い夏場でも無理やり連れて行ったり、犬の足に傷がつきそうな道路状況でも歩かせようとする飼い主もいます。疾患の原因となる場合は場所を変えたり、気温のよっては室内のみの運動にするなど、本来は季節によっても犬に合わせた工夫が必要なのです。

また雨の日の強引な散歩や海の砂浜なども、指間部の汚れの原因となります。指間部に入り込んだ泥や雨水、小石などが指間部を傷つけ、感染の原因となるからです。雨の日の散歩を避けたり、しっかり洗い流したあとは完全に乾燥させるなど、散歩のあとのケアが必須となります。

④爪の炎症
爪に違和感がある状態では、犬が気にして指を盛んに舐めてしまいます。そのため炎症が悪化し広がってしまうのです。炎症がひどくなるとさらに気になって、また舐めてしまうという悪循環が起こります。

⑤ストレス性
犬はストレスを感じると身体の色々な部分を舐めて紛らわそうとします。その一つが指先を舐める行動です。分離不安症などでは執拗に指先を舐め、毛が少なくなって明らかな炎症症状が出るまで続けてしまいます。このように舐めて炎症を起こすものを舐性皮膚炎(しせいひふえん)と呼びます。

また舐めたところから感染がおき、足全体に炎症が広がる原因にもなります。通気性の悪い指間部だけに、マラセチアのような菌の発生も助長してしまいます。

⑥皮膚炎 ⑦感染症
マラセチア皮膚炎などの治療中に、感染症状の一つとして指間炎が引き起こされる場合です。マラセチアは他の犬から感染することはありませんが、身体に常在している細菌であるために、完全に消し去ることはできません。身体の他の部位に感染している場合でも、かゆみのために足で掻きむしり、その結果足先にも感染を起こします。

感染は真菌や細菌だけでなく寄生虫なども含まれるため、指間部も感染しやすい場所の一つであるため、他の部位で発生した場合は、早めに治療を行わないと発症してしまいます。ひどい場合は指間部の炎症が重度となり、出血したり膿が出る場合もありますので、放置せずに部位ごとに適切な処置をおこないましょう。

治療法

検査

細菌感染の場合、細菌を特定する検査が必要になります。しかし指間部に感染を起こしている場合は、全身のどこかに同じように感染が起こっているため、すでに特定されている場合がほとんどでしょう。もし特定されていなければ、原因を検査して特定することから始まります。

また指間炎は、指間炎を引き起こす原因となった大きな疾患の、一つの症状でしかありません。たとえばマラセチア皮膚炎が発症し、その症状の一つとして脂漏症があり、その結果指間部に炎症が起きている場合、炎症を止めることはあくまで対症療法であり、本来の目的ではありません。

なぜマラセチアが増殖することになったのか、その原因を突き止め根本から治さなくてはならないのです。そのため飼育環境や普段の食餌など、獣医師からの問診が増えるかもしれません。実際の検査は少ないですが、その原因が飼育環境なのか?体質なのか?食餌なのか?あらゆる角度から治療のための糸口を探っていくことになります。

治療

治療では主に、飲み薬などの薬物を使用した治療、薬浴、外科手術、悪化させないための処置が行われます。

①薬物治療
動物病院では、炎症部分に塗るステロイド軟膏が処方されます。人間にも使用される「リンデロン」や「ビクタス」といった一般的なステロイド剤は、犬の症状にも高い効果が期待できます。

また指間炎を引き起こす原因となった疾患の治療も同時におこなっていきます。そのため複数の薬物を使用しての治療となる事が多いです。元々の原因が感染症かストレス性かによって治療方法は大きく異なります。炎症の原因が細菌性の場合、抗真菌剤や抗炎症剤などが処方されます。かゆみが出ていたり重度の場合は、内服を使用しながらの治療となりこともあるでしょう。

②薬浴
感染症などの治療では、薬剤の入ったシャンプーで全身を殺菌する、薬浴がおこなわれます。毎日1回~2日に一回など、決まったペースでシャンプーをおこない、薬の成分を浸透させるために少し時間を置き、洗い流します。流したあとは完全に乾燥させ、その後に患部に薬を塗り、治療をおこないます。

③外科手術
症状が重く悪化してしまった場合、壊死した皮膚を取り除く外科手術が必要になる場合があります。ここまで悪化させなければ基本時には薬物治療や薬浴での治療となります。

④悪化させないための処置
治療のために軟膏を塗る場合は、犬が舐めてしまうと効果が出ないばかりか悪化する可能性もあります。舐めないようにエリザベスカラーをつけたり、足先を靴下や包帯などでガードするなど、軟膏の効果がきちんと発揮されるように対処します。

また雨の日の散歩を避けたり、不衛生な環境を改善するなど、飼育環境の改善をおこない、これ以上悪化させないように犬の身の回りを整えていきます。指先を舐めるクセができてしまい、何度も再発しやすいのが指間炎です。今後繰り返さないように処置をおこないましょう。

予防法

指間炎の予防法は、明確なものがあるわけではありません。しかし指間炎を発症しにくい環境や状況を毎日作ることで、予防することができるでしょう。以下はその一例です。

普段から薬用効果のあるシャンプーを使用する

指間炎になりやすい犬には、薬用成分のあるシャンプーを使用することで、細菌の繁殖を抑えることができます。トリミングルームにお手入れを頼んでいるなら相談してみるのも良い手です。

生活環境の改善

感染が疑われる場合は、飼育環境を衛生的に保つように心がけましょう。また指間炎は外傷によるものもありますので、ケガをしないように床に物を置かないようにすることも大事です。ケージ内の床面に網を置いているなら、網に指が食い込んでしまわないように毛布を敷いたりして工夫してみましょう。

散歩の仕方や靴を履かせての散歩を検討する

散歩中に指間炎の原因を作ってしまうこともあります。雨の日やぬかるんだ場所を歩かせない、散歩中の外傷を防ぐために靴を履かせる、炎症がある時は包帯をするなど、外から原因を持ってこないように気を付けましょう。

散歩から帰ったら足を洗う、消毒薬で指間部を拭く

指間部を清潔に保ち、感染しないように気を付けることも大切です。タオルで全身の被毛をゴシゴシこすって汚れを落とす人もいますが、指間部のデリケートな部分はかえって炎症を起こしやすくなります。ウェットティッシュで優しく汚れを取り完全に乾かす、といった感染対策のケアをしましょう。

肉球ケアクリームなどでケアする

肉球が乾燥しひび割れてしまうと、そこから感染を起こしやすくなります。普段のシャンプーや散歩のあとは、肉球のケア用クリームを使用して、保湿と皮膚の保護をおこないましょう。皮膚はカサついている状態ではすぐに傷がついてしまいますが、保湿され柔軟性があればケガをしにくくなります。

肉球のケア用品はたくさん販売されており、ミツロウやシアバターで作られた舐めても問題のないものも多くあります。また飼い主も一緒に使えるものも多く、市販品でも充分に効果があります。

サプリメントを利用する

散歩の仕方や飼育環境の改善をしながら、体質の改善をおこなえるのがサプリメントです。犬用のサプリメントの中でも「アガリクス」は指間炎のような「繰り返してしまう皮膚疾患」の改善には効果的だと言われています。薬品ではないためいつどんな風に効果が発揮されるのかは、個体差があります。

しかし普段から飲ませておくことで、少しずつ免疫力を上げていく改善方法ですので、身体に負担をかけにくく、一生できる体質改善だと言えます。

犬の指間炎まとめ

犬の指間炎は、毎日見ている飼い主でも気付かないほど、最初は小さな炎症から始まります。しかし放置すれば皮膚が壊死するなど、足先の大きな問題になりかねません。なにより、犬にとっての弱点でもある足先が拘束されることで、犬も飼い主も長い期間ストレスを受けることになります。

犬との楽しい毎日を送るためにも、定期的なプロのお手入れと、自宅でも細やかなケアをおこなって、健康的な生活を心掛けましょう。そして少しでも異常を感じたら、迷わず動物病院に相談してください。

執筆者情報:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。

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