人にも感染する犬の皮膚糸状菌症を予防する4つのポイント【ペットアドバイザー執筆】

執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

元動物看護士・ペットアドバイザー

犬の皮膚糸状菌症とは

疾患の概要

皮膚糸状菌症とは、皮膚に生えるカビが原因となって起こる皮膚疾患です。原因となるカビも数種類あり、白癬菌や複数の真菌が糸状菌症の原因とされます。この病気は別名、真菌症とも呼ばれています。白癬菌はケラチンを栄養とするため、皮膚の他に爪にも入り込んで増えていきます。

このカビ類は猫やハムスター、ウサギなど、犬以外のほとんどの動物の他、人間にも感染するため、ズーノーシス(人獣共通感染症)の一種とされています。従って、人がこのカビを保菌していた場合は、抱いたり触ったりした動物すべてに感染の可能性があります。

同じように、たくさん飼育している中の一匹でも感染してれば、その周囲の動物や人間に感染する可能性が出てきます。このように、お互いにうつし合ってしまい、知らず知らずのうちに広がっていくのが、ズーノーシスの怖いところです。

犬種別の感染しやすさはありません。しかし毛を伸ばしている時期や耳が長い犬種は、菌を拾いやすくなり、感染リスクが高まります。そうした意味では、マルチーズやヨークシャーテリア、シーズー、コッカースパニエル、など、多くの長毛種が鳴りやすいと言えるでしょう。

また皮膚の免疫が落ちている個体は感染しやすい状態と言えます。しかし基本的にはすべての犬が感染する可能性のある病気です。

免疫力が高ければ、保菌期間が長い場合もあるでしょう。目に見えない真菌によるものなので、空気中に舞っているのはもちろん、散歩中や人の手を媒介するなど、様々な感染経路を考えて予防をおこなうのが望ましいと言えます。

この病気は、必ず治る病気です。体質や免疫力の問題がまったく左右しないとは言えませんが、完治するまでしっかり治療を続けることが原則となります。時間がかかってもあきらめずに治しましょう。

症状

主な症状です。
・かゆみ
・フケ
・リングワームと呼ばれる円形状の脱毛症状
・リングワームの拡大
・ただれたような膿のある状態
・脱毛部分の色素沈着
・重篤の場合、膿を伴う潰瘍
・広範囲の脱毛が出る場合も
・爪が病変する場合も

症状は感染後すぐに出るわけでなはく、潜伏期間を経て発症します。ですが原因となる真菌の潜伏期間は目安があるわけではなく、個体の免疫力や年齢、犬種、環境などによって左右されるため、1週間という早いサイクルになる場合も、数週間から1か月というケースもあります。そのため保菌期間が分かりにくく、予防に徹するしかないのが現状です。

症状の一番の特徴は「リングワーム」と呼ばれる丸い赤みです。その赤みの輪が広がるように悪化していき、それに伴ってかゆみと脱毛が起こります。皮膚は全体的に悪化していく様子が見て取れ、被毛も美しいツヤのある状態から、パサつきやちぎれてボロボロになった状態に変化していきます。

またフケやかさぶたなども目につくようになります。そして脱毛が広がると、毛が抜けて露出した部分の皮膚は黒ずんで色素沈着が目立ってきます。

真菌はあらゆる動物に感染の可能性のある疾患です。特に老犬や子犬、子猫に出やすいと言われています。この疾患は、犬や人間は明確な症状が出るものの、ネコには出ない場合が多くあります。これを不顕性感染と言います。しかし症状は出なくても保菌はしますので、あらゆる動物が保菌している可能性があると考えておきましょう。

【人間が感染した場合】

人間が感染した場合も犬猫と同様に症状が見られます。保菌または感染した動物を抱っこしたりなでたりする時に自分も感染を起こすため、初めに手や腕、首などの露出部分に円形の赤い腫れものができはじめます。

この時すでに皮膚に保菌している状態となっているため、その後直接感染か、タオルなどを介する間接的な感染で、家族間でうつし合う可能性もあります。異常に気付いたらかゆみなどがなくても、早急に治療を開始しましょう。

原因

皮膚糸状菌症の原因となるのは「真菌」というカビの一種が原因です。しかし特別な菌類ではなく、どこにでもいるようなものの場合も多々ありますので、感染経路の特定は難しいでしょう。本来は土壌菌として生息しており、地球上から根絶されることはありません。この菌は私たちにとっては、「水虫」や「タムシ」と呼ばれる菌でもあります。

重篤になりにくいこと、飼育環境が室内の清潔な環境になったこと、発症していても分かりにくいことなどから、普段はあまり縁のある疾患とは思われていません。

しかし
・皮膚糸状菌症の動物からの感染
・無症状だが保菌中の動物の媒介
という直接感染か、
・原因となる菌の付着した物からの感染
・原因となる菌の付着した有機物からの感染
という間接感染の、どちらかであることは間違いありません。

この動物にはヒトも含まれますので、周囲の動物やヒトの手からの感染を疑いましょう。

治療法

検査

見た目の症状の確認の他にも、抜けた毛やかさぶたなどの落下した皮膚を採集し、顕微鏡検査をおこないます。また糸状菌症では「ウッド灯検査」をおこないます。これは紫外線を照射するライトを当て、病変部分が発光するかを確認するものです。薄い緑や青白い発光が認められれば、陽性反応とされ、糸状菌症と判断されます。

治療

完治となるまでしっかり治療をおこなうのが原則です。
糸状菌症は「動物病院ならどんなところでも一度は治療経験がある」と言えるほどの日常的な疾患です。それはどんな動物もかかる可能性があることと、一度治ったように見えても潜伏している可能性があるからです。次第に症状は引いていきますが、最後まできちんと治療を続けましょう。そして再発防止に努めましょう。

【薬による治療】

治療方法は、抗真菌薬の入ったシャンプーによる皮膚の洗浄をメインにおこないます。抗真菌薬であるミコナゾールの入ったシャンプーが一般的です。またかゆみが強い場合には、サルファ・サリチル酸の薬用シャンプーも効果的です。サリチル酸が殺菌をおこない、同時に皮膚を軟化させ、角質層を溶解していきます。フケが多くかゆみが強い場合に効果的で、かさぶたやフケをはがして洗い流してくれます。

これらの薬用シャンプーは治療時に動物病院から処方されますが、市販もされていますので、完治後の予防に使用することで皮膚の健康を維持することができます。

薬用シャンプーでの殺菌と同時に、抗真菌剤の飲み薬を服用します。飲み薬は大変効果的ですが、副作用もありますので、体質や他の飲み薬との併用など、獣医師とよく話し合って服用しましょう。

その他、リングワームの出ている部分には抗真菌薬の軟膏の塗布をおこないます。かゆみがあると掻きむしって足先に菌が付着し、全身に広がってしまいます。そのためかゆみを止めることも治療の重要なポイントです。

【環境の改善】

上記のような犬の治療を続けながら、飼育環境の改善もおこなわなくてはなりません。発症すると脱毛やフケの脱落などが起こりますが、落ちた場所には一緒に真菌も散らばっていますので、清潔に保てなければ治療の意味がありません。

このため実際は、完治までにはとても時間がかかります。飼育環境からできるだけ原因菌を排除しなければならず、追いかけっこになってしまうことが多々あります。再発が多いのもこのためです。検査で使用したウッド灯検査を再度おこない、陽性反応が認められなくなるまで治療を続けましょう。

【人間が感染した場合】

症状がでていなくても保菌している場合がありますので、犬のためにも必ず治療をおこないましょう。人間でいえば水虫やタムシの治療と同じですので、皮膚科に相談すれば簡単に治すことができます。塗り薬の場合は一日何度か塗布をおこない、何日も続けなければならないため、手間はかかります。症状はかゆみがない場合もありますので、比較的楽な治療となるでしょう。

予防法

保菌の可能性を意識する

予防で大切なのは、飼い主自身にも犬にも症状の出ていない他の動物にも、感染の可能性があると意識することです。症状は出ていなくても菌を持っている「保菌状態」の可能性があるのは、飼育動物だけではありません。ペットを飼育している知人であったり、買い物に立ち寄ったペットショップが感染源である可能性もあります。

またヒトにも感染することから、動物を触らない人間が媒介することもあります。菌が目に見えないことから、あらゆる可能性を考えておき、なるべく清潔な飼育環境を保つことが一番の予防となります。

飼育環境の改善

まずは飼育環境を整えましょう。湿気が多い環境では元となるカビが繁殖しやすい状態になります。飼育環境に置くタオルやベッド、マット類は湿った状態にしないようにし、部屋全体の除湿をおこなってください。一度感染を起こし、再発防止をするのならなおさらです。感染時に使用していたおもちゃ、ファブリックなどは処分し、新たに用意したものはまめに洗い、菌をためないような工夫をおこないましょう。

多頭飼いの場合

一頭が感染すると広まってしまうのが、糸状菌症のやっかいなところです。特に多頭飼いの場合は、すぐに広まり、犬だけでなくネコやウサギなどにも感染を起こします。感染が確認された個体は隔離するのが一番ですが、可能でないなら、他の動物にうつらないよう工夫をしましょう。

たとえば毛の長い犬がいるのなら、一旦短く刈り込み、シャンプーしやすくしておきましょう。治療をおこなう個体の他にも犬がいるのなら、同様に薬用シャンプーを使用して、保菌しないよう予防を行います。

また土壌からの菌の持ち込みを防ぐためにも、土に触れさせない事も必要です。ドッグランは土ではない施設を選び、散歩中は土のにおいをかがせたりしないように工夫します。そうすることで菌類の持ち込みリスクを減らすことができます。

共有部分を減らす

飼い主との相互感染を避けるためにも、犬との寝室は別にして、布団やソファ、クッションなどを共有しないようにしておきます。犬の環境も人の環境も予防に努め、菌をうつしあうことがないように維持していきましょう。

犬の皮膚糸状菌症まとめ

皮膚糸状菌症は、犬だけでなく飼い主も感染の可能性のある皮膚疾患です。ペットライフを心地良く楽しむためにも、ズーノーシスとなる感染症はしっかりと予防をおこないましょう。

知識を増やすことで、疾患を必要以上に恐れることなく、愛犬と良い関係を続けていくために、知っておくことはとても大事です。普段とは違った様子や異常が見られた場合は、すぐに動物病院へ相談してください。病気の効果的な予防法なども指導してもらいましょう。

執筆者情報:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。

専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。