柴犬の指間炎 原因とスキンケアを中心とした対処方法【小動物看護士執筆】

柴犬の指間炎について

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士

柴犬

柴犬の指間炎

1936年に天然記念物に指定された柴犬は、日本犬の中で最も多く飼われている品種です。そのコンパクトなサイズとプロポーションの良さや、犬本来の自然な美しさのために、国内にとどまらずに海外でも人気を高めてきています。

しかし、柴犬はアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などに罹りやすいという品種特性があり、皮膚トラブルを起こしやすい犬種でもあります。

今回は、悪化させやすく繰り返しやすい柴犬の指間炎について、スキンケアを中心に解説していきます。

柴犬の特徴

日本犬の基礎は、縄文時代に南方から入ってきた犬と、弥生時代に大陸から入ってきた犬が混じり合ってできました。そして、番犬や狩猟犬として、それぞれの地方ごとに発達していきました。そして、柴犬は日本海に面した山岳地方で発達してきました。遺伝子研究の結果では、柴犬はオオカミに近い遺伝子構成をしていることがわかっています。

柴犬は、学習能力が高く、精神的にもバランスが取れた落ち着いた犬種です。しかし、頑固な一面も持っています。飼い主さんが一度でも柴犬の規則破りを見逃してしまうと、学習能力の高い柴犬は「規則は破っても良いのだ!」と考えてしまいます。そのため、飼い主さんは諦めずに根気よく柴犬に規則を守らせるようにすることが大切です。

また洋犬に比べると、柴犬のボディランゲージは少々控えめだと言えるでしょう。ただ、決して感情を見せないというわけではありませんので、飼い主さんがきちんと観察し、柴犬の気持ちを汲んであげることが必要です。

また、柴犬はアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の好発犬種です。こういう犬種は、乾燥肌やマラセチア・ブドウ球菌などの常在細菌の増殖による皮膚炎にもなりやすい傾向にあります。また、アレルギー性疾患に対して長期的にステロイド剤や免疫抑制剤を使用していた場合は、免疫力が低下することでニキビダニの感染症発症リスクも高まります。このように、柴犬は皮膚トラブルを起こしやすい犬種だということをきちんと理解しておく必要があります。

指間炎とは

愛犬の足先が赤く腫れ、とてもかゆがって頻繁に舐めたり噛んだりしているのを見かけることがあるのではないでしょうか。それは、おそらく指間炎です。指間炎は、初期の段階では赤く腫れてかゆみがあり、悪化するとそれが痛みに変わり、ひどくなると歩くのも困難な状態になってしまいます。命に関わるような病気ではありませんが、愛犬の生活の質を著しく落としてしまいます。

指間炎とは、指と指の間の部分や肉球の隙間に生じる炎症の総称です。つまり、一つの病気のことを表す言葉ではありません。そのため、指間炎にはさまざまな原因があります。したがって、皮膚トラブルを起こしやすい柴犬は、指間炎を発症しやすいとも言えるのです。愛犬が指間炎になってしまった場合は、原因をきちんと見極めた上でその原因を取り除き、愛犬の症状にあったケアを行いましょう。そうしないと、指間炎を何度も繰り返してしまうことになりかねません。

また、指と指の間の状態は、外見からだけではなかなか気づくことができません。そのため、初期の段階で見つけることができずに、悪化させてしまってから病院に連れて来られるというケースも決して少なくありません。指間炎の初期の状態で気づいてあげるためにも、日頃のスキンケアはとても大切なことだと言えるでしょう。

柴犬の指間炎の原因

一般的に、指間炎の原因は外的刺激、皮膚病、心理的要因の3つに分類できます。基本的には柴犬の指間炎も同じです。それぞれの分類ごとに、詳しくみていきましょう。

<外的刺激>

犬の足先は、散歩等で直接地面などに触れるため、さまざまな外的刺激を受ける場所です。特に、アトピー性皮膚炎に罹りやすい柴犬は、皮膚のバリア機能が弱っていますので外的刺激にも弱いと言えます。その外的刺激を気にして足先を舐めるようになり、それがエスカレートして指間炎を発症してしまうことがあります。具体的な刺激の例は、下記の通りです。

・切り傷

・火傷(炎天下にアスファルトの上を散歩した場合に負いやすいです)

・折れたり伸びたりした爪による刺激または傷

・指の関節の捻挫等の怪我

・足の裏の毛刈りによるバリカン負け

なお、肉球は犬の皮膚の中でも唯一汗腺が存在している部位で、かつ指の間や肉球の間は常に皮膚と皮膚が密着している部位でもあるため、とても蒸れやすく雑菌が付着しやすい環境です。これらのことが、指間炎発症の間接的な要因になっているとも言えるでしょう。

<体質や感染症による皮膚病>

前述の通り、柴犬はアレルギー性皮膚炎を発症しやすく、その影響で感染性の皮膚炎なども発症しやすい体質のため、それらが指間にも発症していることが多いです。

アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・ニキビダニ感染症・細菌や真菌の感染症を発症している場合は、指間も確認し、並行して治療していきましょう。

<心理的要因>

ストレスなどにより、ある特定の行為を長時間繰り返し行う行動のことを常同行動と言います。柴犬は精神的なバランスが取れている落ち着いた犬種ですが、なんらかのストレスや、飼い主さんの気をひくために常同行動が出る場合もあります。その一つに足先を舐めたり噛んだりする行為があります。足先を舐め続けると、足先の皮膚バリア機能が低下して指間炎を起こします。また、掻けば掻く程かゆみが強くなっていきますので、外的刺激や皮膚病といった直接的に皮膚に働きかける原因がなくても、心理的要因で指間炎は悪化していきます。

柴犬には頑固な一面があり、かつ自分の気持ちを示してはいるのですが控えめであるという特徴があります。そのため、愛犬の気持ちを飼い主さんが積極的に汲み取り、日々のコミュニケーションを十分にとるように心掛けましょう。また、東日本大震災以降は、地震や天候悪化、騒音などの際に、顕著にかゆみが悪化する犬が増えてきているようです。そういう場合のフォローも忘れずに気遣ってあげてください。

柴犬の指間炎の治療方法

どんな病気もそうですが、指間炎の治療も、原因除去と症状への対処と改善状態の維持が必要です。まず、動物病院で診てもらい、指間炎の原因を見極めてもらうことが大切です。そして、外的刺激や皮膚病に対する治療を行ったり、ストレッサーを取り除いたりといった治療を根気よく行いましょう。

症状への対処としては、炎症やかゆみ、痛みを抑えるための抗炎症剤(外用薬あるいは内服薬)を投与します。症状によっては、ステロイド剤が処方される場合もあります。細菌感染もある場合は、抗生物質を併用します。

そして、薬用シャンプーで雑菌をコントロールします。薬用シャンプーは、症状により殺菌効果のあるものや炎症を抑える効果のあるものなどを選択します。薬用シャンプーは治療を目的としていますので、使い始めたらずっと使い続けるというものではありません。また、シャンプーの浸け置き時間や頻度なども、症状により異なります。シャンプーの選択、使用方法、使用期間などは、常に動物病院と連携してください。洗浄のし過ぎも外的刺激となります。飼い主さんの勝手な自己判断は禁物です。

また、アレルギー体質の柴犬の場合は、サプリメントによる体質改善も合わせて検討してみましょう。即効性はなくても、長い目でみて効果が出ているという報告も多数みられます。サプリメントを取り扱っている動物病院が増えてきていますので、相談してみると良いでしょう。

柴犬の指間炎に対するスキンケア

柴犬も、通常のスキンケアの流れと同じで、洗浄、保湿、ドライイング、アフターケアの4段階が基本です。洗浄には、通常の皮脂落としと治療目的の処置の2種類があります。この基本的な流れとシャンプーの種類を、指間炎の原因や状態、程度に合わせてうまく組み合わせて対応していきます。

ステップ1. 洗浄

(1) ブラッシングやコーミングで体全体の毛をとかします。

(2) 皮膚の汚れの状況に応じて、シャンプー前のクレンジングや入浴を行います。シャンプー前の入浴(5〜15分)は、この後(3)のすすぎを兼ねることもできます。

(3) (2)で入浴をしていない場合は、シャンプー前のすすぎを行います。35℃程度のぬるま湯で皮膚と毛をよく濡らします。水流で落とせる汚れはしっかりと落としてしまいます。すすぎをしっかりと行うことで、シャンプーを効果的に行えるようになります。

(4) 通常の皮脂汚れを落とすためのシャンプーを行います。シャンプーをよく泡立ててから犬に塗布します。犬の体にシャンプーを塗布してから泡立てると、摩擦のリスクがあり、またシャンプーの過剰塗布、皮膚への残留などの原因となる場合があります。また、シャンプーを毛の流れに逆らってゴシゴシと洗うと、皮膚への刺激となります。毛の流れに沿って優しく揉み込んでいくようにします。

(5) シャンプーを十分にすすぎます。ぬるま湯で、シャンプーの時間よりも長い時間をかけて、しっかりとすすぎます。特に、指の間や肉球の隙間はシャンプーが残りやすいので、要注意です。

(6) 皮膚のトラブルや指間炎のような部位別の対応として複数のシャンプーを用いる場合は、ここでセカンドシャンプーを行います。基本的なやり方は(4)~(5)の通りです。ただし、獣医師の指導に従って、一定時間浸け置く必要がある場合は、犬にストレスを与えないように工夫しながら実施します。犬の状態によっては、短時間で切り上げなければならない場合もあるでしょうから、指間炎などの症状がひどいところから順に行うことをおすすめします。

ステップ2. 保湿

シャンプーを十分に落とした後は、必ず保湿を行います。犬の皮膚は被毛に守られていることもあり、人の皮膚の1/3程度の薄さしかありません。その薄い皮膚の皮膚バリア機能を守るためにも、保湿はとても重要です。皮膚や毛の水分をできるだけ切ってから、かけ流しやスプレーなどのタイプの保湿剤を、体全体に塗布します。その際、指の間にもきちんと塗布するように注意してください。また、洗浄における最後のすすぎの時に、保湿剤を含んだ入浴を行うのも一案です。

ステップ3. ドライイング

愛犬の大きさにあったバスタオルを複数枚用意しておきます。そして、タオルで水分を除去します。その際、ゴシゴシと擦らずに、タオルで体を包んでおくだけでも十分に水分を除去できます。タオルは、マイクロファイバー製などの、水を効率的に吸収する素材の物がおすすめです。タオルだけでは除去しきれなかった部分については、ドライヤーを使って十分に乾かします。ただし、皮膚や毛にあたる風が高温だと皮膚が乾燥しすぎたり、かゆみが悪化したり、皮膚炎が悪化するリスクが高まるので、人肌程度の温風になるように調整してください。風量も、強すぎないように注意しましょう。また、指間や肉球の隙間に水分が残っていると、蒸れてしまい指間炎を悪化させる要因になりますので、足先もしっかりとドライイングしてください。ただし、ゴシゴシと擦らないように注意してください。

ステップ4. アフターケア

皮膚が柔らかくなっていますので、処方されている外用薬は、このタイミングで塗布するのが良いでしょう。また、ドライイングで皮膚が乾燥してしまった場合は、このタイミングで追加保湿することもおすすめです。最終的に、ブラシで毛の流れを整えて完了です。

柴犬の指間炎をケアする際に気をつけたいこと

指間炎は、さまざまな原因で発症し、初期の段階では、外見だけで発見するのが難しいです。また、柴犬の習性や特性を考慮して、柴犬の指間炎をケアする際には、下記のことに気をつけると良いでしょう。

  1. 足先のチェック

散歩から帰ったら、怪我や火傷をしていないか、必ず足先をチェックしましょう。そして、足先を拭くか洗うかして、しっかりと汚れを落として清潔に保ちましょう。

  1. 足先を舐めさせない

指間炎の悪化を防ぐためには、足先を舐めさせないことが重要です。飼い主さんの中には、愛犬がかわいそうなのでエリザベスカラーの着用は嫌だと考える方もおられるようです。しかし、エリザベスカラーの装着は一時的なものです。舐め続けることで指間炎が悪化する方がもっとかわいそうなことだと考えるべきでしょう。

  1. 愛犬にストレスを与えない

心理的要因による足先の舐めぐせが原因で指間炎になる犬も、決して少なくありません。柴犬は繊細な面もあるため、環境の変化に弱かったり、飼い主さんが良かれと思って行っているしつこいスキンシップをストレスに感じたりすることもあります。また、柴犬は猟犬気質もあるため、体を動かしたりおもちゃで遊んだりする事がとても大切です。愛犬と飼い主さんの信頼の絆を深め、愛犬がストレスなく安心して暮らせるような生活環境を整えてあげましょう。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『最新 世界の犬種大図鑑』誠文堂新光社

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

 小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。