犬の皮膚糸状菌症の原因・症状、治療を行う3つのポイント【認定動物看護師執筆】

犬の皮膚糸状菌症の原因・症状、治療を行う3つのポイント

執筆者:ramoup先生

認定動物看護師、JKC認定トリマー

犬の皮膚糸状菌症について

あなたは「犬カビ」という病気を聞いたことがありますか?

犬カビという言葉を初めて聞いた方は、犬にカビ?!とビックリしたことと思います。

犬カビという病気は、犬によく見られる「皮膚糸状菌症(白癬)」という皮膚病のことです。

これは名前の通り、皮膚糸状菌という真菌(カビ)が皮膚に発生する病気で、水虫としても知られているもの。

この皮膚糸状菌症に感染すると、犬の皮膚には円形脱毛(リングワーム)やフケ、発疹などが現れます。

【なぜ円形に脱毛するの?】

皮膚糸状菌症に感染すると、1~4週間ほどで一部の毛が束になって抜けます。

皮膚糸状菌は、脱毛部分とその周りの毛の境目に多く存在しているので、そこから脱毛部分が広がっていくのですね。

境界部分から徐々に脱毛していくことで、脱毛している部分が円形に見えるようになります。

症状が現れる部位は時間がたつほど広がっていくので、放っておくと全身の皮膚に異常が見られるようになります。

まれではありますが、真菌が皮膚の表面から角質まで侵入することで「肉芽腫」というガンのようなしこりができることも…。

また、肺などの臓器にまで真菌症が広がってしまうと、咳や発熱、食欲不振などの症状が出る可能性もあります。

通常は命にかかわる病気ではありませんが、犬にとって厄介な病気であることに変わりはありません。

皮膚糸状菌症は感染するとなかなか治りづらいので、できるだけ早期に発見・治療をすることが大切です。

犬の皮膚糸状菌症の原因

実は、皮膚糸状菌症の原因となる真菌は、私たちの生活環境にも少なからず存在しています。

ですが、インフルエンザウイルスなどと比べて真菌の感染力はとても弱いので、通常であれば感染することはありません。

ここでは、皮膚糸状菌症を発症してしまう原因である2つの要素についてご説明していきますね。

感染している人・動物との接触

すでに皮膚糸状菌症に感染している人、あるいは動物に接触することで感染します。

この病気はペットショップなど動物が複数いる環境で広がりやすく、我が家に迎え入れた時には既に感染していることも。

水虫にかかっている家族がいる場合は、スリッパや足ふきマット、使用済みの靴下などが原因の場合もあります。

免疫力の低下

何らかの原因で免疫力が低下すると、生活環境に存在する弱い菌が犬の体内に侵入できるようになります。

犬の免疫力が下がる原因は、ストレス・運動不足・体調不良・気温・栄養バランスのかたよった食事など様々です。

免疫力が弱い子犬やシニア犬、持病を抱えている犬の場合、健康な犬よりも皮膚糸状菌症に感染するリスクが高くなります。

つまり、皮膚糸状菌症は「主に免疫力の弱い犬がかかりやすい病気」ということです。

本来なら勝てるはずの菌であっても、体の防御力が低下している犬の場合は抑え込むことができないのですね。

皮膚糸状菌症になりやすい犬種

免疫力の弱った犬が発症しやすい皮膚糸状菌症ですが、なかには感染しやすい犬種も存在します。

では、いったいどのような犬種が皮膚糸状菌症にかかりやすいのか、理由と合わせてみていきましょう。

【皮膚糸状菌症になりやすい犬種】

・シーズー

・トイプードル

・ヨークシャテリア

・ペキニーズ

・柴犬   など

皮膚糸状菌はカビの一種なので、温かくてジメジメしている場所が大好き!

そのため、短毛種よりも長毛種のほうが皮膚糸状菌症に感染するリスクが高いといえますね。

特に雨の日が続きやすい梅雨時期は、皮膚糸状菌症にとって絶好の繁殖日和でもあるのですよ。

また、短毛種の中で皮膚糸状菌症にかかりやすい犬種としては、日本犬の代表「柴犬」があげられます。

柴犬は生まれつきアレルギー体質の犬が多く、アトピー性皮膚炎や膿皮症などの皮膚疾患にかかりやすい犬種なのです。

皮膚を守るための免疫力が弱いということは、そのぶん皮膚糸状菌症など真菌症にもかかりやすいということですね。

皮膚糸状菌症の治療方法

犬の皮膚糸状菌症は、1度かかると治るまで時間がかかる病気といわれています。

ですが、早期に対処すればそれだけ回復も早いので、できるだけ早く治療してあげるようにしましょう。

皮膚糸状菌症に効果があるとされている治療法としては、大きく分けて以下の3つがあります。

塗り薬(外用薬)

症状のある部位が1~3か所ほどで、かつ脱毛も小さい場合に使われます。

塗り薬は副作用が少なく、初期の皮膚糸状菌症に用いられることが多い治療法です。

犬が舐めてしまうと塗り薬の効果は半減してしまうので、免疫力を高めるサプリメントと併用するといいでしょう。

病原体にたいして体の内側からも抵抗することで、皮膚糸状菌症を早期に治す効果が期待できます。

飲み薬(内服薬)

症状が体のあちこちに出てしまっている場合は、殺菌効果のある飲み薬を使います。

塗り薬とくらべて体への負担がかかりやすいので、必ず獣医師の指導のもと注意して与えるようにしましょう。

持病が原因で皮膚糸状菌症に感染してしまっているなら、合わせて基礎疾患の治療も行なわれます。

 

薬浴(シャンプー)

殺菌効果があるシャンプーを使って、薬浴をする治療法です。

犬の体を洗うことで真菌が好むフケや汚れを落とせますし、菌そのものを洗い流すこともできます。

ただし、シャンプーの洗い残しや生乾きなどは、真菌が余計に繁殖してしまう原因になってしまうかもしれません。

薬浴のし過ぎはかえって皮膚のダメージになることもあるので、頻度は獣医師に確認してください。

長期化する皮膚糸状菌症の治療

皮膚糸状菌症が完治するまでには、早くても1ヵ月~数カ月はかかります。

思うように効果が出ないからといって諦めず、根気よく取り組むようにしてくださいね!

皮膚糸状菌は私たちの生活環境にも潜んでいるので、カーペットなどの布製品は洗濯し、ブラシやリードは消毒しましょう。

皮膚糸状菌症の再発を防ぐためには、普段からできるだけ清潔な環境を心掛けておくことが大切ですよ。

皮膚糸状菌症のときに気をつけたいこと

皮膚糸状菌症の治療中は、基本的に普段と同じような生活ができます。

病気だからといって構い過ぎると、かえって犬のストレスになる可能性もあるので注意してくださいね。

とはいえ、皮膚糸状菌症に感染してしまったということは、免疫力が弱っているという証拠。

適切な治療をしているのに症状が悪化した!なんてことのないように、できるだけ清潔な環境を保てるようにしましょう。

ここでは、愛犬が皮膚糸状菌症にかかってしまった時に気を付けたいことを4つにまとめてみました。

1.治療中は同居動物と隔離する

他の同居動物に感染が広がらないよう、治療中の愛犬は1つの部屋に隔離しましょう。

皮膚糸状菌症は感染力の高い病気ではありませんが、1度かかると完治までに時間がかかります。

病原体がそこら中に散らばることで感染するリスクは高くなりますので、治療が終わるまで他動物との接触はさせないように。

飼い主さん自身の感染を防ぐためにも、皮膚糸状菌症の犬と接した後は必ず消毒・手洗いをしましょうね。

 

2.犬用タオルなどを洗濯する前は必ず消毒・殺菌

愛犬の生活環境を清潔に保つためには、タオルなど愛犬専用グッズの洗濯が欠かせません。

ですが、皮膚糸状菌が付いたままの状態で洗濯しても、十分に菌を振るい落とすことができない可能性があります。

せっかくキレイにしようと洗濯したのに、菌が落としきれていなければ意味がありませんよね。

犬用のグッズを洗濯する時は、あらかじめアルコールや次亜塩素酸ナトリウムに10分ほど浸けてからにしましょう。

次亜塩素酸ナトリウムは、ドラッグストアなどで洗濯用ハイターとして売られているものでかまいません。

ただし、原液のままでは刺激が強すぎるので、10~100倍に薄めてから使うようにしてください。

3.シャンプーは抗菌作用のあるものを

定期的にシャンプーをすることで、真菌が繁殖しづらい環境を作ることができます。

抗菌作用のあるシャンプーを使って、犬の皮膚に付いた皮膚糸状菌を洗い流しましょう。

皮膚糸状菌症の改善に効果が期待できる薬用シャンプーは、以下の2つです。

・ミコナゾール含有シャンプー(ミコナゾールシャンプー、マラセブシャンプー、ゼボゾールシャンプーなど)

・クロルヘキシジンシャンプー(酢酸クロルヘキシジンシャンプー、ノルバサンシャンプーなど)

どのシャンプーを使用すればよいかは、症状や犬の体質によってそれぞれ。

薬用シャンプーを購入する時は、必ずかかりつけの獣医師へ確認してからにしましょう。 

 

4.お散歩後は肉球の間を拭くこと

お散歩から帰った後は、必ず手足、特に肉球の間をしっかりと拭き取りましょう。

皮膚糸状菌をはじめとする真菌はジメジメと湿った場所を好んで生息するので、水気を残すのはNG。

とはいえ、犬の肌は私たち人間にくらべてとてもデリケートなので、ゴシゴシ強くこすりすぎるのもよくありません。

拭き取り自体が犬のストレスにならないよう、お散歩後の拭き取りは、優しい力で、かつ手早く行うようにしてくださいね。

アルコールを含むウェットティッシュは刺激が強いので、皮膚糸状菌症の犬には避けたほうが安全です。

皮膚糸状菌症にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

皮膚糸状菌症にならないためには、日頃のケアがとても大切です。

愛犬が落ち着いて生活できる環境作りをはじめ、ポイントを抑えた真菌対策を行いましょう。

1.ベッドや毛布はこまめに洗い、部屋を清潔に保つ

愛犬の使っているベッドや毛布は、普段からよく洗うようにしましょう。

犬の皮脂やフケは皮膚糸状菌のエサになるので、繁殖が活発化してしまいます。

愛犬が毎日清潔なベッドで眠ることができるように、犬用のグッズは定期的に洗濯するようにしましょう。

2.スキンシップをよくとって、ストレスや運動不足を解消する

ストレスや運動不足は、犬の免疫力を下げてしまう要因の1つです。

愛犬がリフレッシュできるように、1日のうち30分はスキンシップの時間を作ってあげましょう。

ボールで取ってこい遊びをしたり、ヒモで引っ張り合いっこをしたり、愛犬の好きな遊びを色々と試してみてくださいね。

3.免疫力向上に効果が期待できるサプリメントを摂取する

免疫力を高めるサプリメントを普段の生活に取り入れることで、皮膚糸状菌への感染を予防することもできます。

最近は食材にこだわった良質なドッグフードも色々と出ているので、上手に併用して愛犬の免疫力を向上させましょう!

サプリメントは、食欲不振や毛艶が悪いなど気になることがある場合はもちろん、元気な時から摂取することが大切。

普段から免疫力アップを意識して、病気に負けないからだ作りをサポートできるようにしてくださいね!

執筆者:ramoup先生

経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。