ミニチュアダックスフンドのマラセチア外耳炎。原因・症状・治療と耳のケアのポイント【小動物看護士執筆】

ミニチュアダックスフンドのマラセチア外耳炎について

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士

ミニチュアダックスフンドの特徴

今回は、ミニチュアダックスフンドに多いマラセチア外耳炎について説明します。まずは簡単に、ミニチュアダックスフンドの特徴について紹介しておきましょう。

体高が低くて胴が長く、発達した筋肉と骨太でがっしりとした体格をしています。頭部は長く、鼻先に向かって細くなっていきます。丸みを帯びている耳は幅が広くて適度な長さがあり、高い位置から下に垂れ下がっています。

原産国はドイツで、巣穴にこもるアナグマを狩る狩猟犬として発達してきました。獲物が逃げ込んだ地中の巣穴に潜り込み、そこで吠えることによってアナグマがどこにも行かないように止めておくという技を得意としています。同じようにキツネやアナグマなどの猟犬であるテリアも巣穴に潜り込みますが、獲物を穴から追い出す技を得意としています。直接獲物に襲いかからないダックスフンドは、勇気と冷静さを保ちつつ、頭脳プレーで狩りを行うと言っても良いでしょう。

ダックスフンドのサイズは3種類です。基準は胸囲で、35cm以上の場合がスタンダードで、アナグマやキツネ狩りに用いられます。30〜35cmまでの場合がミニチュアで、ウサギやネズミなどの齧歯類の狩りに用いられます。30cm以下はカニーンヘンで、現在では狩猟にはほとんど用いられていません。

ダックスフンドは英国のヴィクトリア女王(1819〜1901)のお気に入りだったことから人気に火がつきました。その後も、名士やスター、政治家、国家元首などに愛されました。特に芸術家に深く愛され、パブロ・ピカソやアンディ・ウォーホルなどの絵のモデルとして愛犬のダックスフンドが登場しています。

ダックスフンドが遺伝的要因で好発する皮膚疾患には、脂漏症や脱毛症があります。また、国内ではアトピー性皮膚炎の症例も多くみられます。アトピー性皮膚炎などのアレルギーを持っている場合、マラセチアが増殖しやすいため、注意が必要です。

ミニチュアダックスフンドのマラセチア外耳炎について

外耳炎とは、耳の穴の入り口周辺から鼓膜の手前まで続く外耳道に炎症ができる病気のことです。動物病院で診療するすべての診療の中で、犬の外耳炎は15〜20%を占めていると言われているほど多発する疾患です。

外耳炎にもさまざまな種類があり、外耳に溜まった耳垢にマラセチアが過剰に増殖してしまっている外耳炎をマラセチア外耳炎と呼びます。では、マラセチアとはどのようなものなのでしょうか。

マラセチアとは酵母様真菌の一種で、健全な皮膚を維持するために必要な、皮膚の表面に常に存在している常在微生物です。したがって、マラセチアがいること自体に問題はありません。しかし、それが外耳炎を起こしているところに過剰に増殖し、感染してしまうことで、厄介な症状を引き起こすのです。

マラセチアが生活するためには、皮脂が必要です。そのため、脂漏症のように皮脂が過剰な状態だと増殖する傾向にあります。ミニチュアダックスフンドの特徴でも述べた通り、ダックスフンドは遺伝的要因により脂漏症を好発しやすい傾向にあります。

また国内では、マラセチアを増殖させやすいアトピー性皮膚炎も、ミニチュアダックスフンドによくみられます。さらに、マラセチアは湿気を好みますので、耳の穴を塞いでしまう垂れ耳のミニチュアダックスフンドは、マラセチア外耳炎になりやすい要素を二重三重に持っているということになります。

マラセチア外耳炎に罹ると、耳垢がベタベタしたワックス状で臭くなり、かゆみを伴います。そのため、犬はしきりに耳をかこうとしたり、頭を振ったりしますので、このような兆候が現れたら注意が必要です。

マラセチアは常在微生物なので、治療によりマラセチアを減らすことで症状が改善したとしても、マラセチアを増殖させる要因を見極めて適切な管理を行わなければ、何度も再発してしまいます。マラセチア外耳炎の背景には脂漏症やアトピー性皮膚炎が関与していることが多く、この複雑性が根治を難しくしています。

マラセチア外耳炎の治療方法

まずは外耳炎の主因を特定し、主因に対する治療を行います。前述の通り、マラセチアは生活するために皮脂を利用するため、皮脂が過剰な状態になる脂漏症が主因であることが多いです。その場合、脂漏症の治療として、定期的な耳の洗浄、栄養管理、環境管理を行います。耳の洗浄には、サリチル酸などの角質を溶かす成分を配合した洗浄液を使用します。

主因による治療の他、副因、増悪因、素因それぞれへの対処を行います。副因であるマラセチアへの対応としては、抗真菌薬による耳の洗浄による除去を行います。ただし、アトピー性皮膚炎を併発しているケースも多いので、その場合は抗真菌薬ではなく、低刺激の薬剤を選択します。抗真菌薬では、アトピー性皮膚炎で弱っている皮膚バリア機能に与える負担が大きくなりすぎるからです。

*皮膚バリア機能:皮膚が持っている、外からの異物侵入と内からの必要成分漏出を防御する機能のこと

獣医師は、これらの治療をしながら症状の改善状況を観察し、改善されない場合はアレルギー性疾患の併発も疑い、治療方針を見直していきます。時間がかかるかもしれませんが、焦らずに獣医師とタッグを組んで根治を目指して取り組みましょう。

素因の要素として、『衰弱や免疫力低下』というものがありますが、この場合、前述の治療と併せて免疫力を高めるサプリメントを服用することもおすすめの方法です。外部から体内に侵入してきた異物を取り除き、感染症から身を守るための体の仕組みが免疫です。

したがって、免疫力が低下すると、ごく一般的な環境にいても健康を崩しやすくなってしまうのです。免疫力を向上させるサプリメントを服用することで、体の内側から過剰に増殖したマラセチアに対する抵抗力を高めることができます。

免疫力を高める漢方薬として昔から有名なものに、アガリクスがあり、犬用のサプリメントも出ています。最近は動物病院でもサプリメントを取り扱っているところが増えてきていますので、気軽に相談してみましょう。サプリメントは、学会での発表や複数の論文を出しているような、信頼できる会社の製品を選ぶと良いでしょう。

また、ミニチュアダックスフンドの垂れ耳は、外耳炎の素因として重要です。もちろん、垂れ耳が直接的な外耳炎の要因ではありませんが、常に耳の穴を塞いでしまうため、耳の中が高温多湿になりやすく、また飼い主さんが耳の中の異変に気付きづらいため、意識して積極的に耳のケアを行うことが大切です。

マラセチア外耳炎のときに気をつけたいこと

マラセチア外耳炎に罹った場合の愛犬のケアで気をつけたいことについて、耳のケア、食餌管理、環境管理、シャンプーの選び方の4つの観点で説明します。

1.耳のケア

基本的に、耳のケアは健康な状態では必要ありません。耳垢は自然に外耳道から耳介(耳の、頭から飛び出している部分)に排出されます。したがって、外耳に耳垢があるのが普通の状態なので、それを取る必要はありません。正常な状態の耳垢を取ろうとすると、かえって外耳炎の原因になります。

マラセチア外耳炎になってしまった場合でも、綿棒で耳垢を取るのは、耳介の部分のみにしましょう。犬の外耳道は耳の穴から垂直に下り、L字型に曲がって水平に鼓膜へと続く形状をしていますので、外耳道で綿棒を使うと耳垢をL字の角の部分に押しやってしまい、かえって耳垢を溜めてしまうことにもなりかねないからです。

また、耳洗浄を行う場合は、動物病院でしっかりと外耳と鼓膜の状態を確認してもらってからにしましょう。炎症などで外耳壁が損傷している場合は低刺激な成分の薬剤を選ぶ必要がありますし、鼓膜に穴が空いている場合は薬剤が中耳にまで入ってしまって聴覚に良くない影響を与えてしまいます。

耳洗浄の薬剤は、水性製剤と油性製剤があり、さらに油性製剤にはクレンジングタイプとプロテクタータイプの薬剤があります。水性製剤やクレンジングタイプによる洗浄は、飼い主さんが自宅で行うには難しいので、自宅で行う場合はプロテクタータイプが使いやすいでしょう。いずれにしろ、動物病院で獣医師とよく相談し、洗浄方法も病院でしっかり指導してもらいましょう。

病院で練習する時には獣医師や看護師がそばに居てくれるので良いのですが、自宅に戻ると不安になる飼い主さんが多いようです。耳洗浄は外耳道に洗浄剤を満たしてマッサージを行うため、飼い主さんの腰が引けていると、犬はもっと不安になってしまいます。自宅でも、落ち着いて自信を持って行いましょう。

2.食餌管理

マラセチア増殖の要因となる脂漏症は、年齢に合った栄養バランスが取れていない食餌や、糖質や脂質の過剰給与によっても悪化します。そのため、栄養管理としてその犬の年齢にあった栄養バランスとなるように食餌内容を調整したり、場合によってはビタミンA・必須脂肪酸などを給与したりすることも必要です。

3.環境管理

マラセチは高温多湿を好みますので、環境が高温多湿な場合は改善が必要です。特に高温多湿となる夏の間は、室温25〜28℃、湿度60〜70%を目安に維持しましょう。また、耳のケアやシャンプーなどで耳の中が濡れた場合、耳の中が蒸れないように、しっかりと後処理を行いましょう。

マラセチア増殖の背景にアトピー性皮膚炎がある場合は、環境からアレルゲンを排除します。具体的には、小まめな清掃や服の着用などです。食物アレルギーの場合は、食餌内容にも注意が必要です。

またアレルギーは、ストレスにより症状が悪化することも少なくありません。日常の生活の中で、愛犬のストレスを排除するように注意が必要です。特に、東日本大震災以降は、天候の悪化、騒音、地震発生によりかゆみが悪化するという症状が顕著に表れている例もあるようです。自然災害時の愛犬のストレスケアについても気を使ってあげましょう。

4.シャンプーの選び方

皮脂汚れを除去するためには、高級アルコール系の界面活性剤や角質溶解剤、脱脂剤等を含んだシャンプーが効果的です。しかし、アトピー性皮膚炎も併発している場合は、皮膚バリア機能への影響を考慮して、低刺激の界面活性剤と保湿剤を配合したシャンプーを用いる方が良いでしょう。

マラセチアの増殖を抑えるためには、抗菌作用のあるミコナゾールやクロルヘキシジン、ピロクトンオラミンなどを含んだシャンプーが効果的ですが、基本は脂漏症やアトピー性皮膚炎に適したシャンプーを使用し、マラセチアが増えた時にのみ抗菌作用のあるシャンプーを併用するという方法が、長期的に考えてもおすすめです。

ミニチュアダックスフンドのマラセチア外耳炎予防やケアのポイント

マラセチア外耳炎にならないために必要な、日頃の予防やケアとして大切な4つのポイントを下記にまとめます。

1.健康な状態の把握と日々の観察

一番基本的なことは、健康な状態の時の様子を把握しておくことです。健康な時の耳のにおいや普段のしぐさなどを、しっかりと把握しておきましょう。そうすれば、変化が見られたらすぐにおかしいと気づくことができます。変化とは、耳垢が臭い、頭を振る、しきりに耳をかこうとする等です。

2.適切な耳のケア

過剰な耳のケアは禁物です。前述の通り、健康な場合は原則耳のケアは不要です。特に、綿棒を使って外耳道の耳垢を取ろうとするのはやめましょう。ただし、ミニチュアダックスフンドは耳が垂れていますので、1週間に1度は耳の様子を覗いて確認しましょう。

また、プールで泳いだりシャンプーしたりなど、耳の中に水が入った後はよく拭いて乾かしましょう。既に発症してしまっている場合は、獣医師の指示に従って、適切な耳洗浄を適切な頻度で確実に行いましょう。

3.栄養管理

皮膚の構成要素を維持するために、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルのバランスが取れた食餌を与えましょう。ただし、年齢のステージに合わせて必要な栄養バランスが異なりますので、注意しましょう。

4.ストレス管理

快適な環境状態を維持し、ストレスフリーな生活環境を整えることも大切です。適度な運動やご家族との触れ合いの時間をしっかりと確保しましょう。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『イラストでみる 犬の病気』講談社

・『トリマーのための ベーシック獣医学』ペットライフ社

・『動物臨床に役立つやさしい免疫学』ファームプレス

・『世界で一番美しい犬の図鑑』X-Knowledge

・『最新世界の犬種大図鑑』誠文堂新光社

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

 小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。