ポメラニアンの脱毛症の原因・症状、日常ケアのポイント【動物看護士執筆】

ポメラニアンの脱毛症とは

執筆者:竹内Coco先生

動物看護師、トリマー

小さい体にふわふわの被毛。ピンと尖った耳と丸い目がなんとも愛らしいポメラニアン。小型犬の中でも人気の犬種です。

そんなポメラニアンですが、しばしば皮膚炎や脱毛症を起こすことがあります。ポメラニアンのシンボルとも言えるふわふわの被毛。そんな自慢の被毛が脱毛を起こすと驚き心配してしまいますよね。

そこで今回はポメラニアンに良くみられる脱毛症についてご紹介していきます。

ポメラニアンの皮膚、被毛の特徴について

まず、皮膚トラブルや脱毛の原因と直結するポメラニアンの皮膚・被毛の特性をご説明しましょう。

ポメラニアンの被毛の特徴

犬には換毛期と呼ばれる季節性の脱毛があります。この換毛期による脱毛はなんら問題はありませんが、特に抜け毛の多い犬とあまり目立たない犬種に分かれます。ポメラニアンは、抜け毛の多い犬種。

その理由は被毛の仕組みによるものです。犬には、オーバーコートとアンダーコートと呼ばれる2種類の被毛があり、アンダーコートは、オーバーコートの下に密集して生えている毛です。犬種によって、このアンダーコートを持つ犬種と持たない犬種があり、オーバーコートしか持たないものをシングルコート、両方を持つ犬をダブルコートと呼んでいます。

ポメラニアンはダブルコートの犬種。顔の周りや胸元の毛は長く、尻尾の飾り毛は扇のように広がっていても毛量も多いものです。ポメラニアンの毛が換毛期に多く抜け落ちるのは自然なことと言えるでしょう。

ポメラニアンのカラーバリエーションは、代表的なものがレッドやクリーム。その他にブラック、ブラウン、チョコレート、オレンジ、オレンジ・セーブル、ウルフ・セーブル、ブラック&タン、パーティカラーなどバラエティ豊かです。

ポメラニアンの皮膚の特徴

ポメラニアンは小さくピンと尖った三角形の耳をしています。そのため通気性が良いのが特徴で、他の犬種と比べ外耳炎になるリスクは低いと言えます。実際に動物病院でも、ポメラニアンの外耳炎にはあまり遭遇することがありません。

ポメラニアンに脱毛トラブルが多い理由

ふわふわとした被毛

ふわふわとした被毛を持つポメラニアン。お手入れが大変なこともあり、毛が絡まってしまうとしばしば皮膚炎を起こすことがあります。皮膚炎には脱毛を伴うものもあり、自慢の豪華な被毛が時に皮膚炎、脱毛の原因となってしまうこともあるでしょう。

細い四肢

ポメラニアンのもう一つの身体的特徴が細い脚です。成長期などには外的要因によって骨折しやすく、膝蓋骨脱臼などのリスクも高い犬種。いっけん、皮膚病や脱毛とは関係なさそうな細い四肢ですが、痛みやしびれが元となって酷く四肢を舐めることがあるのです。これにより脱毛を起こしてしまうケースもポメラニアンではしばしばみられます。

ポメラニアンの脱毛症の主な原因、症状、治療法

ポメラニアンによくみられる主な脱毛症の原因、症状、治療法についてご説明します。

アロペシアX

ポメラニアンにみられる最も代表的な脱毛がこのアロペシアXです。原因が不明であることから別名、脱毛症X、毛周期停止などとも呼ばれています。2~5歳の雄犬で発生頻度が高い傾向があります。

アロペシアXを発症する犬の半数をポメラニアンが占めることから「ポメラニアン脱毛症」と言われることもあるほど、犬種特異性の強い病気であり、遺伝によると考えられてもいます。

症状

左右対称に脱毛し、脱毛した部分は色素沈着を起こします。毛艶が悪くなり皮膚が乾燥しがちになります。また、皮膚が薄くなったり逆に弾力が出たりすることも。背中や腰のあたりの毛が抜け始め、続いて首や腹部、尻尾の付け根、太ももあたりと全身に脱毛がみられますが、頭部と脚の毛が抜けることはほとんどありません。

治療法

原因不明の病気であるため、はっきりとした治療法がわかっていないのが現状です。痒みや赤みなどその他の皮膚症状はなく、左右対称の脱毛を起こすことからクッシング症候群などの内分泌疾患がないかの検査が必要になります。また、痒みを伴わない皮膚病が潜んでいないかの皮膚検査も行われるでしょう。

アロペシアXだと診断された場合には、メラトニンと呼ばれるホルモン剤やホルモンの分泌を抑えるアドレスタンといった薬やサプリメントで症状が改善するケースもあります。

また、ホルモンが関係している可能性もあることから避妊や去勢を行うことで、発毛がみられる場合もありますが、多くの症例で1~2年後に再発してしまうことが多いようです。皮膚に特化した療法食や栄養バランスの取れた食事に変更するなどの食事療法も推奨されます。

しかしながら、命に関わる病気ではないため、見た目の問題と飼い主さんが割り切れる場合には乾燥や皮膚の汚れなどのケアをこまめに行い、皮膚の状態を良好に保つだけで治療を行わないケースもあるでしょう。

肢端舐性皮膚炎(したんしせい皮膚炎)

肢端舐性皮膚炎(したんしせい皮膚炎)は、アレルギー性皮膚炎や細菌感染による痒み、ストレスなどが要因となって、手先や足先を舐める行為を繰り返すことで起こる皮膚炎です。舐め続けることで、脱毛や出血がみられます。

稀に、外傷、関節炎、骨折などの痛みやしびれが原因となることもあります。このような痛みやしびれが原因となる肢端舐性皮膚炎は小型犬に多くみられますが、なかでもポメラニアンで発症の多いものです。

また、ポメラニアンは用心深く吠えやすい神経質な性質も持っているので、ストレスを受けやすい犬種です。犬はストレスを受けると同じ場所を繰り返し舐めることがありますので、肢端舐性皮膚炎を起こしやすくなるでしょう。

症状

赤み、炎症、出血、脱毛

治療法

まず、根本的な原因を特定します。アレルギー性疾患や皮膚病による痒みがないか、ノミダニの寄生がないかなどの皮膚検査を行い、もし見つかればそれらの治療が行われます。

見つからない場合には関節炎やストレスが原因と考えられます。繰り返し舐めるという行動の原因を見つけて、取り除くことが重要です。

炎症がみられる皮膚ではほとんどの場合、細菌感染を起こしているので抗生物質が投与されます。また、エリザベスカラーをつけて患部を舐められないようにするなどの工夫も大切です。

マラセチア皮膚炎

マラセチア菌が原因となって起こる皮膚炎。このマラセチア菌は酵母菌(カビ)であり、高温多湿の環境を好みます。また、普段は皮脂を食べて大人しく生息しているので、健康な犬や人などの動物の体にもいるものです。

ですが皮脂の過剰分泌、免疫力の低下などによりこのマラセチア菌が異常繁殖すると、赤みや痒みを引き起こします。

症状

赤み、痒み、フケ、脂漏(皮膚のべたつき)など。慢性化すると脱毛し、皮膚が黒く分厚くなってきます。また、独特な脂っぽい嫌な臭いを放ちます。

治療法

主な治療法は薬用シャンプーで洗うこと。物理的にマラセチア菌を洗い流すことが効果的です。また、抗真菌薬を塗ったり飲ませたりして菌の繁殖を防ぎます。痒みが酷い場合には一時的にステロイド薬を使用し、痒みを抑えるケースもあるでしょう。

ポメラニアンから脱毛症を遠ざける5つの日常ケア

ポメラニアンにみられる脱毛症には原因不明なものや精神的要因から来るものが多く、なかなか完全に予防することは難しいものです。ですが愛犬がストレスを受けず、健康に過ごすためにも飼い主さんに気を配ってもらいたい点を5つご紹介します。

こまめなブラッシングやシャンプー

ポメラニアンの豪華でふわふわな被毛を保つためにはブラッシングは欠かせません。また、多くの被毛に包まれているのでなかなか地肌までは掻き分けないと見えません。毎日ブラッシングを行ってあげることで、皮膚の異常に早く気が付いてあげることができます。万が一ノミなどがいた場合にも早く発見することができるでしょう。

もつれを起こすと皮膚病の原因にもなります。毎日のケアと、月1回程度定期的にトリミングに出してあげましょう。ブラッシングには皮膚に刺激を与えるマッサージ効果も期待でき、皮膚や被毛の状態を整えることができますよ。

自宅でシャンプーを行う際には、しっかりと根本まで乾かしてあげることが重要。ポメラニアンは毛が多いので、なかなか根本までは乾きにくいものです。乾ききっていないと蒸れてしまい、そこから雑菌が増殖し皮膚病を発症するケースもあります。

皮膚炎が原因で痒みや赤みを引き起こし、掻きむしったり舐めたりすることで脱毛してしまうこともあるので注意が必要です。

栄養バランスの取れた食事

また栄養バランスの取れた食事も大切です。脱毛症を遠ざける他にも、ポメラニアンは足が細く関節炎や膝蓋骨脱臼を起こしやすい犬種。太りすぎや、筋肉不足はこれらの病気のリスクを高めてしまいますので、栄養バランスにはしっかりと気を配る必要があります。

また、市販の安価なドッグフードや手作り食を与えている場合には低栄養が原因となって毛艶が悪くなったり、発毛しなかったりというケースもあります。スキンケアに特化したフードに変えるというのも一つの方法です。

炎症を抑える効果のあるEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸や、抗活性酸素物質であるビタミンE、Cが配合されているフードは皮膚・被毛の調子を整えるのに効果的。

また、フードだけでは不足しがちな栄養素を摂り入れたり、免疫力を体の内側から高めてくれたりするサプリメントもおすすめですよ。

小さい頃からしっかりと社会化訓練をする

寂しがり屋で依存しやすい性格を持つポメラニアン。小さい頃に甘やかすと分離不安になりやすい犬種です。気が強い一面もあり、そのまま自由に育てているとよく吠えたり、神経質な犬になってしまいます。神経質な犬ほど、受けるストレスは大きく、ストレス性脱毛症のリスクも高まるでしょう。

ポメラニアンを家族に迎えたときには、小さいうちから社会化を身につけさせてあげることが愛犬がより安心して暮らしていくためにも重要なポイントです。

生活環境を整えてあげる

小型犬はストレスを受けやすいものですが、なかでもポメラニアンはその傾向が強いタイプです。そのためなるべく生活環境を整えてあげる工夫が必要になります。そして生活環境の中で何かストレスを受けていないか、常に気を配ってあげましょう。

自宅の中で愛犬が落ち着ける場所をしっかり確保してあげることも大切です。

コミュニケーションをたっぷり取る

ポメラニアンは好奇心旺盛で活発な性格でもあります。足が細く痛めやすいので激しい運動はあまりおすすめできませんが、適度なお散歩は運動不足やストレス解消のためにも必要です。

また、お散歩は飼い主さんとのコミュニケーションも取れますよね。寂しがり屋な一面を持つポメラニアンは、コミュニケーションを取る時間を設けてあげられないと、ストレスを感じてしまいます。忙しくても愛犬との時間は毎日しっかりと取るように心掛けてあげてくださいね。

執筆者:竹内CoCo先生

経歴:大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。

ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。