犬のマラセチア性皮膚炎を予防・ケアする3つのポイント【動物看護師執筆】

犬のマラセチア性皮膚炎を予防・ケアする3つのポイント【動物看護師執筆】

ramoup先生

(動物看護師・JKC認定トリマー)

「最近しきりに体を痒がるし、なんだか体も赤くてべたついている…」
こんな症状が愛犬に見られる場合は、マラセチア性皮膚炎を疑ったほうが良いかもしれません。

その名の通り、マラセチア性皮膚炎は「マラセチア菌」という真菌(カビ)による皮膚病のこと。

「耳・脇・首回り・肛門」など皮脂のたまりやすい部位に発症しやすいことから、脂漏性皮膚炎とも呼ばれています。

皮脂の多い場所のなかでも特に湿っている部位を好むので、指の間や口周りにも症状がみられます。

そもそもマラセチア菌は、私たち人間をはじめ「全ての犬猫が持っている常在菌(常に存在する菌)」です。

健康な時には何も悪さはせず、皮脂腺から分泌される皮脂を食べて穏やかに暮らしている、いわば無害な菌。

しかし、何らかの原因でその数が異常に増えてしまうと皮膚に炎症を起こすようになってしまうのです。

犬のマラセチア性皮膚炎の原因

マラセチア菌が異常に増えることで起こるマラセチア性皮膚炎ですが、その原因はなんでしょうか?

普段は程度な数を保っているはずのマラセチア菌が増えてしまう原因には、以下の4つが関係しています。

1.高温多湿な環境

マラセチア菌は皮脂を食べて生きているので、皮膚がべたつきやすい梅雨時期・夏は数が増えやすいといえます。

空気が乾燥する冬にくらべると、気温が高い夏場ではマラセチア性皮膚炎を発症する確率が約2倍以上も上がるんですよ。

パグやフレンチブルドッグなどの短頭種は鼻周りのシワに皮脂がたまりやすく、マラセチア菌が増えやすい犬種です。

2.栄養バランスの乱れ

普段から油っぽいごはんを食べていると、皮脂が過剰に分泌される原因になります。
脂質と糖質のバランスが良くないドッグフードを長期的に与えることは、犬の健康にとって良くありません。

3.体質による皮脂の増加

マラセチア菌は皮脂をエサにする菌なので、皮脂の分泌量が多いほどマラセチア性皮膚炎のリスクが高まります。

アトピー性皮膚炎など皮膚のバリア機能が弱っている場合は、乾燥などから体を守るために皮脂が過剰に分泌されることも。

また、食物アレルギーやホルモン疾患などの基礎疾患を持っていると、分泌される皮脂の量が増える傾向があります。

4.免疫力の低下

免疫力が下がってしまうと、犬の体には様々なトラブルが起こるようになります。

「ストレス・病気・老化・食事」など免疫力が低下する原因は色々ありますが、原因を特定するのは大変です。

マラセチア性皮膚炎は何らかの原因で免疫力が下がった時に発症しやすく、かつ完治するまで時間がかかります。

マラセチア性皮膚炎になりやすい犬種

主に上記4つが原因で起こるマラセチア性皮膚炎ですが、なかには発症しやすい犬種も存在します。

どのような犬種がマラセチア性皮膚炎になりやすいのか、理由と合わせてみていきましょう。

【マラセチア性皮膚炎になりやすい犬種】

あぶらっぽい

アメリカン・コッカー・スパニエル、ダックスフント、バセットハウンド、シーズー、ミニチュアシュナウザーなど

アレルギー体質

柴犬、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウェスティ、シーズー、レトリーバー種、パグ、ブルドッグ・トイプードルなど

ホルモン疾患になりやすい

ビーグル、ウェルシュ・コーギー、レトリーバー種、チワワ、ダックスフントなど

この他、マラセチア菌は湿気のある場所に好んで生息するので、立ち耳よりたれ耳の犬種に多く発症します。

また、体の毛が短い短毛種よりも長毛種のほうが温かくて湿気がこもりやすいので、発症するリスクも高くなるでしょう。

ちなみに、「柴犬は短毛種・立ち耳にもかかわらず皮膚疾患にかかりやすい犬種」です。

柴犬は生まれつきアレルギー体質の犬が多いので、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患にかかりやすいのです。

柴犬のように皮膚のバリア機能が体質的に弱い犬種は、普段から意識して免疫力を高めておく必要があるといえますね。

マラセチア性皮膚炎の治療方法

1度増えてしまったマラセチア菌は、そのまま放っておくだけでは減ってくれません。

マラセチア菌のエサは皮膚に存在する皮脂なので、皮脂腺から皮脂が分泌される限り増え続けることができるのです。

マラセチア性皮膚炎の治療は、増えすぎたマラセチア菌を減らし、皮脂の量を適度に戻すことをメインに行います。

1.飲み薬(内服薬)

症状が広く出ている場合は、抗真菌剤を飲んで治療します。

塗り薬にくらべると犬の体に負担がかかりやすいですが、効果が現れやすいのが特徴です。

副作用を防ぐためにも、1日○回など服用回数・量はしっかりと守るようにしましょう。

2.塗り薬(外用薬)

症状が軽く、かつ部分的な場合には、抗真菌薬が入った塗り薬を使って治療します。

患部はあらかじめシャンプーなどで清潔な状態にしておき、1日に1~2回ほど外用薬を塗ります。

塗り薬の形状は、クリーム、ローション、ジェル、スプレーなどで、皮膚の状態に合ったものが処方されます。

3.薬浴(シャンプー)

マラセチア性皮膚炎に効果のあるシャンプーを使って、薬浴をする治療法です。

抗菌作用のあるシャンプーで犬の体を洗うことで、増えすぎたマラセチア菌を効率よく減らしていくのです。

余分な皮脂や汚れも一緒に洗い流すことができるので、マラセチア菌が繁殖しにくい環境を作り出すこともできますね。

4.その他の病気の治療

マラセチア性皮膚炎は、ホルモン疾患やアトピーなど基礎疾患が発症の引き金になりやすい病気です。

そのため、愛犬がもともと抱えている病気を治さないことには、どんなに治療をしてもマラセチア性皮膚炎が再発してしまうのです。

基礎疾患をしっかりと治療することで免疫力が改善し、マラセチア性皮膚炎の再発を抑えることができるようになります。

マラセチア性皮膚炎のときに気をつけたいこと

マラセチア菌は健康な犬の肌にも存在している真菌なので、他の犬や人にうつる心配はありません。

他の真菌症(皮膚糸状菌症など)と違って感染経路を絶つ必要もなく、基本的には普段通りの生活ができますよ。

ただし、マラセチア性皮膚炎の改善には、定期的なシャンプーが欠かせません。

もし愛犬がマラセチア性皮膚炎になってしまったら、週に2~3回はシャンプーをしてあげましょう。

ここでは、【マラセチア性皮膚炎の犬をシャンプーする時に気を付けたいこと】を3つにまとめてみました。

マラセチア性皮膚炎の犬をシャンプーをする時の注意点

1.シャンプーは皮膚の状態に合ったものを

マラセチア性皮膚炎の改善に効果が期待できる薬用シャンプーは、以下の3つです。

・マラセチア菌の除去:抗菌・抗真菌性シャンプー

(マラセブシャンプー、酢酸クロルヘキシジンシャンプー、ノルバサンなど)

・皮脂の除去:抗脂漏性・角質溶解性シャンプー

(ケラトラックス、サルファサリチル酸シャンプー、ビルバゾイルシャンプーなど)

・皮膚バリアの改善:保湿・止痒性シャンプー

(ヘルスラボ、デュクソラールシャンプー、アデルミルシャンプーなど)

どのシャンプーを使用すればよいかは、症状や犬の体質によってそれぞれ。

合わないシャンプーを使ってしまうと、余計に皮膚バリアが弱くなってしまうかもしれません。

薬用シャンプーを購入する時は、必ずかかりつけの獣医師へ確認してからにしましょう。

2. シャンプー後は被毛をしっかり乾かすこと

マラセチア菌は湿った場所が大好きなので、乾かし残しは絶対にNGです。

吸水性の高いタオルで被毛の水気をふき取った後は、ドライヤーを使って丁寧に乾かしていきましょう。

被毛をしっかりとかき分けながらドライヤーの風を当てるようにすると、乾きが早くなって時間が短縮できますよ。

愛犬をヤケドさせないように、ドライヤーは犬の体から20cm以上離すようにしてくださいね。

3.乾燥対策として保湿剤を塗ることも忘れずに

マラセチア性皮膚炎に限ったことではありませんが、ドライヤー後は必ず皮膚の保湿ケアをしましょう。

ドライヤーは少なからず犬の皮膚にダメージを与えてしまうので、そのままでは皮膚のバリア機能が弱まる原因に。

乾燥による皮脂の過剰分泌を防ぐためにも、ドライヤー後の保湿ケアは忘れずに行ってくださいね。

マラセチア性皮膚炎にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

マラセチア性皮膚炎にならないためには、日頃のケアがとても大切です。
体内のマラセチア菌が悪さをしないように、普段から生活環境を整えておきましょう。

1.定期的にシャンプーをして、皮膚を清潔に保つ

定期的にシャンプーをすることで、マラセチア菌が繁殖しづらい環境を作ることができます。

シャンプーに含まれる成分でかえって犬の皮膚が傷つかないように、刺激の少ないシャンプーを選びましょう。

2.バランスのとれた食事、適度な運動をこころがける

バランスのとれた食事や適度な運動は、犬が健康を維持するために欠かせないものです。

マラセチア性皮膚炎はストレスが原因で発症することもあるので、たくさんスキンシップをとってあげることも大切ですよ。

3.免疫力向上に効果が期待できるサプリメントを摂取する

マラセチア性皮膚炎になってしまうということは、愛犬の免疫力が下がっているという証拠でもあります。

本来マラセチア菌は無害な真菌なので、免疫力がしっかりと維持できていれば問題を起こすことはありません。

マラセチア菌のような真菌をはじめ、ウイルスや細菌などの病原体に負けないためには、免疫力の向上が不可欠です。

免疫力向上に効果が期待できるサプリメントを普段の生活に取り入れて、病気に負けない体作りをしましょう。

執筆者:ramoup先生

経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。