犬の真菌症(皮膚糸状菌症)の原因、治療、予防法【獣医師執筆】

犬の真菌症(皮膚糸状菌症)の原因、治療、予防法

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

犬の真菌症って何?

真菌とは、いわゆる『カビ』のことで、カビが犬に感染することで様々な症状を引き起こし、この病気を真菌症と呼びます。真菌には数多くの種類が存在するのですが、犬の真菌症は、ほとんどが皮膚に見られるタイプです。まれに肺や胃腸など各臓器での真菌症が見られることもあります。

皮膚の真菌症は、主に『皮膚糸状菌症』と『マラセチア性皮膚炎・外耳炎』が見られ、いわゆる犬の真菌症は、犬の皮膚糸状菌症のことを指していることがほとんどです。

そこでここでは、『犬の皮膚糸状菌症』についてお伝えします。

犬の皮膚糸状菌症ってどんな病気?

犬の皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌によって引き起こされる皮膚病で、全身に様々な症状を引き起こします。また、一般的に真菌は、免疫が十分についていない子犬や、免疫力が低下した高齢犬、あるいは病気の犬に対して感染を引き起こすのですが、犬の皮膚糸状菌症は、主に子犬によく見られる皮膚病です。

皮膚糸状菌は、顕微鏡で見ると、菌糸が糸状に見えることからこのように名付けられています。皮膚糸状菌の多くは日常空間に存在しており、犬の毛などに少なからず付着しています。通常はそのような状況では感染は起こらないのですが、上記のように犬が何らかの原因で免疫が弱い状態に陥ると、1〜4週間の潜伏期間を経て、様々な症状を引き起こすようになります。

犬の真菌症(皮膚糸状菌症)の症状はどのようなものがあるの?

犬の皮膚糸状菌症の主な症状は、

  • 脱毛
  • フケ
  • 湿疹
  • かゆみ

などがあります。さらに時間が経つと感染がどんどんと広がり、全身に見られるようになります。

また、皮膚の表層から角質へ侵入して感染が拡大すると、いわゆる『肉芽腫』という一見、癌のようなしこりになることもあります。さらには、爪の周辺に感染すると、爪の根元周辺に赤みや腫れなどの炎症を引き起こします。

ただし、犬の皮膚糸状菌症の症状は、特有のものではなく、細菌感染などの皮膚病でも同じような症状が見られますので、症状だけで診断することは非常に危険です。皮膚糸状菌症を疑う症状が見られた時は、必ず動物病院を受診し、獣医師による診断を受けるようにしてください。

犬の皮膚糸状菌症の診断方法は?

犬の皮膚糸状菌症では、症状や顕微鏡検査、培養検査などを組み合わせて診断します。

一般的に、犬の皮膚糸状菌症は、症状だけでは他の皮膚病と区別することが難しいため、年齢や生活環境、病歴などの情報も含めて判断します。

犬の皮膚糸状菌症は、まだ十分に免疫が発達していない仔犬での感染が多く見られます。また、狭い場所での多頭飼育や、衛生環境の不備など、犬にとって大きなストレスがかかり、皮膚糸状菌が増殖しやすい環境にも注意が必要です。さらには、クッシング症候群など免疫力が低下しやすい病気、あるいは高用量のステロイド治療や抗がん剤治療でも免疫力が低下し、皮膚糸状菌症にかかりやすい状況に陥ってしまいます。

犬の皮膚糸状菌症の検査では、皮膚糸状菌を直接確認するための顕微鏡検査が行われます。病変部の被毛を顕微鏡で確認することで、皮膚糸状菌を検出できることがあります。ただし、個人的な経験では、必ずしも顕微鏡で皮膚糸状菌が検出できるとは限らないため、皮膚糸状菌症を疑う場合は、顕微鏡検査で見つけられなかった場合、以下の培養検査やPCR検査が必要になります。

犬の皮膚糸状菌症の培養検査は、顕微鏡検査よりも高確率で皮膚糸状菌を検出することができます。そのため、培養検査で皮膚糸状菌が見られた場合は、しっかりと犬の皮膚糸状菌症を診断することができます。しかし、培養検査にはかなりの時間がかかるため、診断がつくまで治療を待つことが難しい場合もあります。

また、培養検査は皮膚糸状菌の検出には、より確実な方法ですが、その検出された皮膚糸状菌が、実際に犬に感染を起こしているかどうかは、症状や犬の環境など、すべての情報を併せて診断する必要があります。さらには、培養検査でも検出できない皮膚糸状菌もありますし、逆に皮膚糸状菌以外の真菌が培養されてしまうこともあります。そのため培養検査で皮膚糸状菌が検出されたからといって、必ずしも100%診断がつくわけではないという点には注意が必要です。

犬の皮膚糸状菌症はどうやって治療するの?

皮膚糸状菌症の治療は、主に以下の3つの治療を組み合わせて行います。

  • 抗真菌剤の投与(内服薬や外用薬)
  • 薬浴
  • 基礎疾患の治療

抗真菌剤の投与

抗真菌剤は直接的に皮膚糸状菌に作用することで、その効果を発揮します。いずれの抗真菌剤も、犬の体への負担が少なからずあるため、皮膚糸状菌症の症状が、体のごく一部に限られるときは、副作用の少ない外用薬を用いることが多いです。

しかし、皮膚糸状菌症は、目に見えないレベルで広がっているため、目に見える病変だけ治療しても改善が乏しく、体のあちこちに感染してしまいがちになります。そのため、体のあちこちに病変がある場合や、1カ所が大きく広がっている場合、あるいは外用薬ではなかなか改善しない場合には、副作用に注意しながら内服薬を用います。

抗真菌剤の投与は、通常は1ヶ月〜数ヶ月の治療期間が必要です。

薬浴

犬の皮膚糸状菌症の治療では、薬浴による治療も積極的に行われることが多いです。薬浴の目的は、皮膚糸状菌そのものを洗い流すことと、フケや余計な皮脂など、皮膚糸状菌が増殖しやすい汚れを洗い流すこと、この2点になります。また、最近では抗真菌剤を配合した薬用シャンプーも使われるようになり、より皮膚糸状菌症の治療に適した薬浴が行えるようになっています。

しかし、薬浴だけでは治療効果が不十分なことが多く、抗真菌剤の投与を併用したりすることもあります。また、薬浴をしすぎると、皮膚にとって本来必要な、皮膚のバリア機能を保つための皮脂までも洗い流してしまい、さらに皮膚にダメージを与えてしまう場合もありますので、薬浴の関しては、獣医師の指示のもとで行うようにしてください。

基礎疾患の治療

犬の皮膚糸状菌症は、免疫力が低下した犬に感染することがほとんどです。そのため、免疫力が低下するようなクッシング症候群などの病気を持っている場合は、適切に病気をコントロールすることで、皮膚糸状菌症の治療効果を高めることができます。

また、ステロイド剤や抗がん剤など、薬剤の影響による免疫低下については、あえて免疫力を低下させることで、その病気の治療効果を高めているものですので、皮膚糸状菌症が併発してしまった場合は、獣医師の処方によって、お薬を調整する必要があります。

犬の皮膚糸状菌症を予防するには?

犬の皮膚糸状菌症の予防で大切なのは、『環境整備』と『免疫力へのケア』です。

犬の皮膚糸状菌症は、一般的には健康な犬では罹りづらい病気と考えられます。しかし、狭い空間での多頭飼育や排泄物による汚れなど、劣悪な環境で過ごす犬では、感染リスクが高くなると言われています。したがって、皮膚糸状菌症の予防には、まずは犬にとってストレスの少ない生活環境、また衛生的に問題のない清潔な環境を維持してあげることが重要です(もちろん、これは皮膚糸状菌症だけに限ったことではありませんが)。

また、犬の皮膚糸状菌症は、免疫力の低下した犬に感染しやすいため、クッシング症候群など免疫力が低下するような病気に対して、きちんと治療すること自体が予防にも繋がりますし、さらには、普段から免疫力を高めるサプリメントを導入するなどの工夫をお勧めします。

特に皮膚糸状菌症の感染が多い仔犬では、まだ十分な免疫力がついておらず、さらには抗真菌剤など治療薬による副作用リスクも高いため、私自身、キングアガリクスを積極的に勧めています。

また、これは個人的な見解ですが、当院で採用しているキングアガリクスは、予防だけでなく、治療の時にも併用すると、犬の皮膚糸状菌症のケアに非常に役立っていると感じています。

犬の皮膚糸状菌症は人間にも感染するって本当?

犬の皮膚糸状菌症は、人間にも感染することがあるため、注意が必要です。人間もやはり免疫力が弱い人への感染があり、特に乳幼児や高齢者は気をつける必要があります。ただし、割合はそんなに多くありませんので、健康な方が極端に恐れる必要はなく、正しい衛生環境を維持していただければ十分です。

もし、あなたの犬が皮膚糸状菌症にかかった場合は、衛生環境の整備や犬に触れた後の手洗いはもちろん、人間に皮膚病が見られた場合は、早めに人の皮膚科を受診し、皮膚糸状菌症の犬と生活していることを伝えた上で、治療を受けるようにしてください。

犬の真菌症(皮膚糸状菌症)のまとめ

犬の皮膚糸状菌症は、免疫力の低下した犬に多く見られ、脱毛やフケ、かゆみといった症状がみられます。治療は抗真菌剤の投与や薬浴などを行いますが、一般的には治療が数ヶ月という長期に及ぶことも多くあります。犬の免疫力を維持することや生活環境を清潔に保つことが皮膚糸状菌症の予防につながりますので、日頃からの生活で予防を心がけるようにしてあげてください。


執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会