真菌が原因で起こる犬のマラセチア性外耳炎について【動物看護師執筆】

真菌が原因で起こる犬のマラセチア性外耳炎について

ramoup先生

(認定動物看護師・JKC認定トリマー)

あなたは「マラセチア性外耳炎」という病気を聞いたことはありますか?

マラセチア性外耳炎とは、マラセチア菌という真菌が原因で外耳に炎症が起こる病気のこと。
普段はおとなしいマラセチア菌が何らかの原因で増えてしまい、耳に様々なトラブルを起こしている状態です。

マラセチア性外耳炎には、耳の痒みや赤み、耳アカの増加など様々な症状があります。

マラセチア性外耳炎にかかった犬の耳アカはこげ茶色~黒色をしており、独特な甘いにおいを発しています。

よく頭をふったり、しきりに手足で耳周りをこすったりしている場合は、犬が耳を痒がっているのかもしれません。

また、掻き続けることによって耳周りの皮膚を傷つけてしまい、傷口から二次的に細菌感染を起こしてしまうこともあります。

犬のマラセチア性外耳炎の原因

マラセチア性外耳炎は、原因によって一時的なものと再発を繰り返すものに分かれています。
普段は適度な数を保っているはずのマラセチア菌が増えてしまう原因には、一体どんなものがあるでしょうか?

1.高温多湿な環境

真菌(カビ)の一種であるマラセチア菌は、じめじめした暖かい場所が大好き。

犬の耳の中は常に湿った状態なので、マラセチア菌にとっては繁殖する絶好のポイントといえます。

湿度が高い時期である梅雨や夏場には、マラセチア性外耳炎を発症する犬の数が2倍以上にもなるんですよ。

2.外傷による炎症

耳掃除で耳道が傷ついたり、掻いた時に傷が付いたりすることで炎症が起きる場合もあります。

耳の中に入り込んだ草や被毛などが炎症の原因になることもあるので、草むらがお散歩コースの場合は注意が必要。

傷や異物が原因で一時的に発症したマラセチア性外耳炎であれば、基本的に再発することはありません。

3.アレルギー性外耳炎などの病気

マラセチア性外耳炎は、アレルギー性外耳炎など他の病気の合併症としても知られています。

そのため、もともと耳にトラブルを抱えている犬の場合、どんなに適切な治療をしても再発しやすい傾向があります。

4.免疫力の低下

老化やストレスなど何らかの原因で免疫力が低下すると、犬は様々な病気にかかりやすくなります。

普段はおとなしいマラセチア菌が悪さをし始めるということは、体の抵抗力が弱っている証拠ともいえますね。

マラセチア性外耳炎になりやすい犬種

マラセチア性外耳炎を発症するかどうかは、犬種によっても違ってきます。

ここでは、マラセチア性外耳炎を発症しやすいとされる犬種をまとめてみました。

【マラセチア性外耳炎になりやすい犬種】

たれ耳の犬種:

アメリカン・コッカースパニエル、ダックスフント、シーズー、バセットハウンド、キャバリアなど

アレルギー体質:

柴犬、アメリカン・コッカースパニエル、ウェスティ、シーズー、パグ、フレンチブルドッグ、レトリーバー種など

あぶらっぽい体質:

アメリカン・コッカースパニエル、ダックスフント、シーズー、ボストンテリア、バセットハウンドなど

脂漏症、いわゆるあぶら性の犬種では、全身の皮膚にもマラセチア菌が増殖してしまうことがあります。

全身に症状があらわれるマラセチア症は「マラセチア性皮膚炎」と呼ばれており、外耳炎と同じく再発しやすいのが特徴です。

マラセチア性外耳炎の治療方法

一時的な下痢などと違い、マラセチア性外耳炎は放っておいて良くなることはありません。

マラセチア菌のエサは耳の中に存在する皮脂や耳アカなので、皮脂がある限りは生き続けることができるのです。

マラセチア性外耳炎にかかってしまった時は、主に以下4つの方法で増えすぎたマラセチア菌を減らします。

1.耳道洗浄

耳の中を清潔に保つために、耳クリーナーや薬用シャンプーで耳道内を洗浄します。

耳道洗浄をすることでマラセチア菌を洗い流すことができたり、塗り薬の効果を最大限に発揮することができます。

マラセチア菌は湿った場所で増殖するので、洗浄後はしっかりと水分を拭き取ることが大切です。

2.点耳薬(外用薬)

マラセチア性外耳炎の治療には、抗真菌作用のある点耳薬を使うのが一般的です。

点耳薬といっても使い方は色々あり、耳の中に垂らしたり、そのまま塗ったりして使います。

多くの点耳薬には細菌の増殖を抑える抗生物質や、炎症を抑える効果のあるステロイドが配合されています。

3.飲み薬(内服薬)

耳の炎症が強すぎたり、耳を触ると怒る犬には、飲み薬を使って治療をします。

ただし飲み薬は全身への作用が強く、外用薬に比べると副作用のリスクが高くなります。

マラセチア性外耳炎の治療薬として処方される薬は安全性が高いものですが、必ず用法容量を守りましょう。

4.その他の病気の治療

マラセチア性外耳炎の原因である基礎疾患を治療することで、再発防止につながります。

なお、アレルギー体質の場合はアレルギー用の療法食に切り替える、体の免疫力を上げるなどの方法が効果的。

マラセチア性外耳炎を繰り返さないためには、他の病気に対する治療も並行して行うことが大切です。

マラセチア性外耳炎のときに気をつけたいこと

常在菌であるマラセチア菌は、健康な犬の体や耳にも存在しているもの。

ですから他の犬や人にうつる心配はありませんし、基本的には普段通りの生活ができます。

とはいえ犬の様子や症状によっては、処方された薬をただ塗っているだけでは足りないことも。

薬の効果を最大限発揮し、できるだけ症状が出ないようにするためには、自宅での適切なケアが欠かせません。

ここでは、マラセチア性外耳炎の時に気を付けたい3つのポイントと注意点について説明します。

1.できるだけ耳周りを掻かせない

マラセチア性外耳炎にかかった犬は、ほとんどが耳に痒みを感じています。

ですが、犬に好きなだけ掻かせてしまうと、耳の中に傷が付いて炎症が悪化してしまうことも…。

できるだけ早くマラセチア性外耳炎を完治させるためには、患部をむやみに触らせないことがとても大切です。

あまりに痒がって目が離せない場合は、エリザベスカラーの装着について獣医師に相談してみましょう。

2. 耳の中を清潔に保つ

マラセチア菌は耳アカの多い環境で増殖するので、洗浄液を使って耳掃除を行います。

ただし、洗浄液の中には炎症を起こしている耳には刺激が強すぎるものもあり、独断で選ぶのはNG。

洗浄液の刺激で炎症が悪化しないように、必ず獣医師から処方されたものを使用するようにしてくださいね。

また、綿棒は耳の中を傷つけてしまう可能性が高いので、犬の耳掃除には使わないようにしましょう。

【犬の耳掃除の方法】

常温の洗浄液を耳の中に注ぎいれ、耳アカをふやかすために耳の根元を優しく揉みます。

5回ほどクチュクチュと揉みこんだところでコットンを使い、表面の水分だけ拭き取っていきましょう。

※犬が自分で頭を振って水分を飛ばせるようなら、コットンは使わなくて大丈夫です。

3.耳の中に水分を残さないようにする

常に耳の中が湿っている場合、マラセチア菌の数はなかなか減っていきません。

特にたれ耳の犬は耳道内が湿気やすいので、シャンプー後は必ず耳に入った水分を拭き取るようにしましょう。

また、雨の日のお散歩にはカッパを着ていくなど、普段よりも耳が濡れないような工夫をしてください。

マラセチア性外耳炎にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

マラセチア性外耳炎を予防するためには、普段から耳の中を清潔にしておくことが大切です。

また万が一マラセチア菌が増殖したとしても抵抗できるように、体の免疫力を高めておく必要があるでしょう。

1.定期的な耳チェック

マラセチア菌のエサとなる耳アカがたまっていないかどうか、定期的に愛犬の耳をチェックしましょう。

犬の耳には自浄作用と呼ばれる「体内の汚れを自ら浄化する機能」が備わっており、本来なら掃除をする必要はありません。

ですが、あぶらっぽい体質の犬や耳毛がたくさん生えている犬種では、耳を清潔に保つ手助けが定期的に必要なのです。

何らかの原因で耳アカが増えてしまった場合、マラセチア菌は徐々に増殖して様々なトラブルを引き起こします。

1~2日に1回は愛犬の耳を覗いてみて、耳アカがたまっていないか、赤みや腫れはないか確認するようにしてくださいね。

もし汚れが見えるようであれば、お手入れ用のイヤークリーナーで耳の汚れを落としてあげるようにしましょう。

ただし、気になるからといって過剰に洗浄してしまうと、耳のバリア機能が壊れて逆効果になることも。

愛犬の体質や犬種によっても違いますが、基本的に耳掃除の頻度は1ヵ月に1回~2回ほどがベストですよ。

2.適度な運動やスキンシップでストレス解消

栄養バランスの乱れや運動不足によるストレスが、マラセチア菌を増殖させるきっかけになることも。

日頃からたくさんスキンシップをとっておくことで、マラセチア性外耳炎を発症するリスクを下げることができます。

マラセチア性外耳炎を予防するためには「よく食べ、よく遊んで、よく眠る」この3つがポイントですよ。

3.免疫力アップに効果が期待できるサプリメントを摂取する

免疫力アップが期待できるサプリメントを使って、マラセチア菌に負けない体作りをしましょう。
マラセチア菌のような常在菌によってトラブルが起こるということは、愛犬の免疫力が下がっている証拠。

様々なウイルスや細菌などの病原体に負けないためには、普段から病気への抵抗力を高めておくことがとても大切です。

食の細いわんちゃんは食事から十分な栄養を摂取するのも大変ですが、サプリメントならその点も安心ですね。

執筆者:ramoup先生

経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。

動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。