犬のアトピー性皮膚炎の原因・症状、治療、日常ケアの3つポイント【認定動物看護師執筆】

犬のアトピー性皮膚炎の原因・症状、治療、日常ケアの3つのポイント

ramoup先生

(認定動物看護師・JKC認定トリマー)

犬のアトピー性皮膚炎について

犬のアトピー性皮膚炎は、他因子疾患とも呼ばれている、生まれつきの病気です。

他因子疾患とは複数の原因で引き起こされる病気のことで、治療法は1つではありません。

症状は皮膚の痒みや赤みなどで、本来は大きな害のないものに体が過剰反応することによって起こります。

ほとんどの犬は3歳以下で発症し、1度発症すると長期にわたって治療が必要です。

犬にとってアトピー性皮膚炎の症状は、生活の質を下げてしまう原因になるもの。

現在の獣医療では完治できない病気ですが、できるだけ症状をコントロールすることは可能です。

治療が上手くいけば、ほとんど症状がでない「寛解」という状態を保つこともできますよ。

アトピーについての正しい知識を知り、愛犬の治療に役立てましょう。

犬のアトピー性皮膚炎の原因

免疫が関係して起こるアトピー性皮膚炎ですが、具体的にいったい何が問題なのでしょうか?

私たち人間をはじめ、地球上の動物は「免疫力」によって自分の体を細菌やウイルスから守っています。

免疫力は動物が健康を維持するために欠かせない機能ですが、強すぎると様々な問題を引き起こしてしまうことも。

というのも、過敏になった免疫反応は、自分の体を異物と勘違いして攻撃してしまうことがあるのです。

【アトピー性皮膚炎の症状が起きる過程】

アレルギーを引き起こすアレルゲンとなる物質が体に侵入する

→異物を排除するため、免疫細胞IgE抗体を大量に作り出す

→異物とともに自分の体も攻撃してしまう

→皮膚バリアが低下して、痒みなどの症状が表れる

つまり、アトピー性皮膚炎が発症するには

1.アレルギー体質など遺伝的要因

2.花粉やダニなどアレルゲンの存在

3.皮膚バリアが弱くアレルゲンが体内に侵入しやすい

という3つの要因が重なる必要があるということですね。

皮膚のバリア機能が落ちてしまうと、犬の肌はカサカサと乾燥していきます。

乾燥した肌はちょっとした刺激でも炎症を起こしやすくなるので、痒みや赤みなどが出やすいのですね。

犬のアレルゲンになりやすいもの

犬のアレルゲンになりやすいものとしては、以下のようなものがあげられます。

・ダニ

・ほこり・花粉

・ノミダニの死骸や糞

・特定の食べ物

このうち、犬のアレルゲンにもっともなりやすいのは「ダニ」。

ダニは温度20~30℃、湿度60%ほどの場所なら、どこでも繁殖することができる寄生虫です。

犬のアトピー性皮膚炎の多くは、このダニが原因によって起こるといわれています。

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種

アトピー性皮膚炎は、免疫細胞の過剰反応で起こる生まれつきの病気です。

基本的にはどんな犬種でも発症する可能性がありますが、中には発症しやすい犬種も。

犬の約3~15%はアトピー体質だとされていることから、遺伝性が高いことでも知られています。

アトピー性皮膚炎を発症しやすい犬としては、主に以下の犬種があげられます。

・柴犬

・シーズー

・コッカー・スパニエル

・ウェスティ

・チワワ

・ビーグル

・ボストン・テリア

・ボクサー

・ダルメシアン

このうち特に発症リスクが高いのは、柴犬とウェスティです。

柴犬とウェスティはアレルギー体質の犬が多く、皮膚疾患にかかりやすい傾向があります。

明確な原因は分かっていませんが、皮膚のバリア機能が体質的に弱いことが関係しているのかも。

その他では、シーズーも様々な皮膚疾患にかかるリスクが高いことで知られています。

アトピー性皮膚炎の治療方法

アトピー性皮膚炎は、1度発症すると一生涯付き合うことになる病気です。

そのため、アトピーの治療方法はワンちゃんと飼い主さんのライフスタイルに合ったものを選びます。

また、複数の治療法を組み合わせるなど、状態や原因によって柔軟に対処していきます。

①アレルゲンの除去

ダニやほこりなど、アレルゲンと思われるものを徹底的に除去しましょう。

血液検査であらかじめアレルゲンを特定しておけば、その後の対応がスムーズになります。

愛犬用のベッドやタオルは頻繁に洗い、ふとんは定期的にダニ駆除効果のある乾燥機にかけること。

掃除機掛けはもちろん、アレルゲン対策用のスプレーを活用するのも効果的です。

また、特定の食べ物がアレルゲンの場合は、アレルギー対応のドッグフードに切り替えて。

アレルゲンに似た構造の物質に反応して症状が出る「交差反応」には、十分注意してくださいね。

②薬物療法

痒みや痛みを抑える薬を使って、皮膚のバリア機能を改善させていきます。

アトピー性皮膚炎の治療では、外用薬(塗り薬)・内服薬(飲み薬)どちらの薬も使用します。

症状を抑えるにはステロイドが効果的ですが、長期間の使用による副作用には注意が必要といえますね。

薬の容量・用法は必ず獣医師の指示を守り、適切な使用を心がけなければいけません。

③減感作療法

アトピーの原因であるアレルゲンを少量ずつ体に入れることで、アレルゲンに慣れさせます。

1度に多くのアレルゲンを入れることは危険なので、あくまで量は少なく、慎重に。

減感作療法がうまくいけば、アトピー性皮膚炎の症状をほとんど出なくさせることも可能です。

アトピー性皮膚炎の時に気を付けたいこと

アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚のバリア機能が通常よりも弱っている状態です。

バリア機能が弱っているということは、アトピー以外の病気も併発しやすいということ。

マラセチア性皮膚炎をはじめ、アトピー性皮膚炎の犬は様々な皮膚炎を起こしやすい傾向があるのです。

もし愛犬がアトピー性皮膚炎になってしまったら、特に以下のような点に注意しましょう。

1.シャンプーは保湿系のものを

マラセチア性皮膚炎を併発している犬の場合、皮膚がベタベタと油っぽくなることがあります。

そうなると洗浄力が高いシャンプーで洗いたくなりますが、これはかえって症状を悪化させてしまいます。

洗浄力の高いシャンプーは皮脂をごっそり落としてしまうので、皮膚炎の犬には不向きなんですね。

獣医師の指示があった場合は別ですが、基本的にアトピーの犬には保湿系のシャンプーを使いましょう。

ちなみに、犬をシャンプーする時はお湯の温度を37℃程度に調整し、しっかり地肌を濡らしてから始めて。

液体のまま体にかけると皮膚の負担がかかるので、あらかじめ桶で泡を作っておいてください。

ごしごしこすると痛くて暴れるので、優しくなでるように洗うようにしましょう。

2.保湿剤は毎日塗りこんで

アトピー性皮膚炎の犬は、普段から皮膚がカサカサに乾燥しています。

そのまま放っておくと痒みはどんどん悪化してしまいますし、掻くことで傷口から菌が入る可能性も…。

愛犬が毎日できるだけ快適に過ごせるように、飼い主さん自身で保湿剤を塗りこんであげましょう。

保湿剤は動物病院で処方してもらえるので、かかりつけの獣医師に相談してみてくださいね。

3.できるだけ衛生的な生活環境を保とう

皮膚のバリア機能が落ちていると、些細なことでも皮膚に炎症が起きやすくなります。

完璧な状態を維持することは難しいですが、できるだけ愛犬の生活環境はキレイにしておきたいもの。

愛犬のベッド、毛布、お気に入りのぬいぐるみは定期的に洗い、余計なものは置かないようにしましょう。

意外と盲点ですが、カーテンや観葉植物もほこりがたまりやすい場所なので、要チェックです。

アトピー性皮膚炎を悪化させないために必要な日頃のケア

犬のアトピー性皮膚炎は、生まれ持った体質によって起こる病気です。

そのため残念ながら、日頃のケアによって確実に発症を防ぐということはできません。

ただし、正しい治療やスキンケア、アレルギーの除去によって症状を緩和させることはできます。

ぜひ正しい方法でケアを行い、愛犬のアトピー症状が悪化するのを防いであげましょう。

 

1.定期的なシャンプーをして、皮膚を清潔に保つ

定期的に体を洗い流すことで、物理的にダニなどのアレルゲンを排除します。

保湿系シャンプーは皮膚に薄い膜を作ってくれるので、皮膚バリアを補助する役割も期待できますよ。

シャンプー後は皮膚がかさつきやすいので、必ず保湿剤を塗るようにしてくださいね。

タオルドライをしっかりして、ドライヤー時間も短縮しましょう。

2.食事はバランスよく、適度な運動も忘れずに

栄養バランスのとれた食事や適度な運動は、健康な皮膚を保つために欠かせないもの。

バランスの良くないフードを与えることで、アトピーの症状は悪化してしまう可能性があります。

犬が必要とする栄養価は年齢によって違うので、愛犬のライフステージに合ったものを選んでくださいね。

特定の食べ物にアレルギーがある場合は、アレルギー対策用の療法食に切り替えるようにしましょう。

また、アトピーはストレスによって悪化することもあるので、適度な運動でストレスを発散することも大切です。

愛犬がまだ若いなら、たまにドはッグランなどを利用して思いっきり運動させてあげられるといいですね。

3.皮膚の健康維持に効果が期待できるサプリメントを摂取する

ビタミンB群の一種であるビオチンを含むサプリメントは、アトピー性皮膚炎のケアに役立ちます。

というのも、ビオチンには皮膚や被毛の健康を保つ作用があるので、皮膚バリアの改善効果が期待できるのです。

アレルギー体質の愛犬であっても、皮膚バリアさえしっかりしていれば、アトピーの症状は悪化しません。

毎日の食事にビオチンを含むサプリメントを取り入れて、アトピー症状を自然に抑えてあげましょう。

 

参考

小方 宗次監修 くわしい犬の病気大図典

執筆者:ramoup先生

経歴:ヤマザキ動物看護大学卒業。認定動物看護師・JKC認定トリマー。
動物病院勤務で培った知識・経験を活かし、「病気に関する情報を分かりやすく」お届けします。愛犬・愛猫の病気について、飼い主様がより理解を深める際のお手伝いができれば嬉しいです。