犬の指間炎の原因、症状、良くする3つのポイント【獣医師執筆】

犬の指間炎の原因、症状、良くする3つのポイントなど

増田国充先生(獣医師)

犬の指間炎について

犬を飼っている人なら時折目にするかもしれないしぐさの一つに、足先をしきりに舐める行動があります。愛くるしく犬らしいしぐさの一つですね。その行為そのものは決して病気が存在することを表すものではありません。しかしながら、どんな行動も適切な加減というものがあります。過剰に指の間を気にしているようであれば、それは指間炎かもしれません。

指間炎とは、まさにその字の通りで前肢後肢問わず指と指の間の部分、水かきと呼ばれる部分に生じる炎症の総称です。原因は非常に多岐にわたります。詳しくは後述しますが、様々な要因で指の間をなめたり、あるいは物理的に傷を作ってしまうような原因によりかゆみや痛みを生じます。それがさらに犬にとって気になる要因になりますので、その行動がさらにエスカレートします。悪化していくと、びらん(皮膚のただれ)や化膿を引き起こすことがあります。

実際の見た目の変化についてご覧いただきましょう。肉球を中心に皮膚が赤くなっていることが多くみられます。もともと汗をかく部分で湿り気が強いのですが、ここに舐めたことによるしっとり感がさらに強調されます。また、他の場合では、肉球周辺の皮脂が強くなることでフケっぽい様子が見られる場合もあります。

犬の指間炎

【肉球周辺にフケが多く付着している】

全体に腫れっぽい状態になる場合もあり、個体差があります。足先をなめる仕草が良くみられる犬の場合は、その部分の毛が変色していることがあります。唾液の成分が毛に付着して赤茶色に変化します。それそのものがすべて指間炎の存在に直結するというわけではありませんが、これまでに見られなかった足先を気にする行動が顕著になっているときは要注意といえるのかもしれません。

犬の指間炎

【指の間をなめていたことによって毛が変色している】

このように、生死にかかわる重大な問題に発展するということは極めて低い指間炎ですが、生活に密着する身近な部分が原因となる場合が多く、普段の何気ない仕草であるため見逃しやすい部分があります。

犬の指間炎の原因

足先は物理的に外界と多く接するところですので、もともと様々なトラブルが生じやすいところです。例えば、お散歩中に生じやすい鋭利なものによる切り傷、あるいは炎天下の舗装路によるやけどなどもあります。また、肉球や指の間に直接強い刺激が加わることが要因となるばかりでなく、爪折れや指の関節の捻挫などのようにその周りに何かトラブルが生じた際にその影響で本来の患部とは異なる指間を気にしてしまうということもあります。

もう一つの特徴として足先は汗腺が発達している場所であるということです。人間ほどではないものの、犬の足の裏からは汗が出ます。それによる蒸れが原因となることがあります。ご家庭で気を付けたいのが、シャンプーを行った後足の裏の乾燥が不完全な場合に指の間が蒸れてしまい炎症の原因となることがあります。また足の裏の毛刈りによる刺激も注意が必要となる場合があります。バリカン負けによって足の裏にヒリヒリ感が残ってしまい、それを気にして舐めたり噛んだりすることで指間炎に発展する場合があります。

犬の指間炎

【トリミング後の犬の肉球 写真の犬はもともと指間炎症があるが、バリカンによる毛刈りでかゆみを強く感じることがある】

そして、もうひとつ指間炎を生じる原因として重要な要素があります。それは、犬が四肢の端をなめる行為そのものにあります。先ほど説明したものは、ケガや刺激などによって肢端にダメージを負ってしまったものですが、本来病変の存在しない分を犬自身が自発的になめ続けることによって、その結果皮膚炎に至ってしまうことがあります。

これは、犬の問題行動と深い関係があります。もともと足先が気になるわけではないのに、犬自身が暇を持て余している、あるいは飼い主さんにかまってほしい時に気を引こうとして足先を舐める行動に出ることがあります。それほど回数が多くなく、時間が短ければすぐに指間炎に至ることがありませんが、この行動はエスカレートすることがあります。

気が付いたら気を引こうとしていた行為で本当に炎症が生じて、かゆみや痛みを伴うようになります。足先を頻繁になめている場合、指の部分の毛が唾液によって赤茶色に変色します。おうちのワンちゃんの足先をチェックしてみましょう。

指間炎になりやすい犬種

犬の指間炎に関して特定の犬種がかかりやすいということではなく、条件によってどの犬でも生じうるものであると考えられます。ただし、一般に皮膚病になりやすいといわれる犬種は、皮膚疾患の一部として指間炎になる傾向が高くなります。この皮膚病にもアレルギー由来のもの、感染性のものなど様々ですが以下の犬種に皮膚病が多くみられます。

・シーズー

・ミニチュア・ダックスフンド

・柴犬

・フレンチブルドッグ

・パグ

従いまして、「うちの子、皮膚病になりやすいな」とお感じになったら皮膚だけでなく、足の裏や指の間もよく観察してみましょう。

犬の指間炎の治療方法

犬の指間炎を治療するうえで大原則となるのは、「原因を取り除くこと」です。先ほど説明しました通り、原因は様々で個々によって異なります。直接の原因となっている部分に対し適切な対処を行うことが重要となります。外傷があればそのケアが必要であり、それと合わせて指間炎の治療も進めていきます。

実際に犬の指間炎の治療では、塗り薬や飲み薬を使うことが多くみられます。かゆみや痛みを止める抗炎症剤といわれるもの、この場合症状によってステロイドといわれる炎症止めを使用することがあります。また、細菌感染がみられるようであれば抗生物質も併用します。

それ以外の方法として、薬用シャンプーによって患部の雑菌をコントロールする場合があります。シャンプーなら何でもよいということではなく、殺菌効果のあるもの、炎症を抑える効果のあるもの、皮脂の分泌を調整するものなど個々の状態に適したものを選択します。あくまでも治療の一部としてのシャンプー療法(薬浴)という位置づけです。使用するシャンプー剤によって、シャンプーを行う頻度、シャンプーの漬け置き時間などが異なります。獣医師からの指示に従い使用しましょう。

犬種によって指と指の間にも大量の毛が密集している場合があります。その場合蒸れや雑菌付着の原因になることがあるので、足裏の毛刈りを行います。その際できるだけバリカン負けしないように注意が必要です。これらの治療を行っても、どうしても犬自身が気になって顔が足先に関心が行きがちです。治療中はいかになめさせないようにするか、これが早期回復のカギを握っているといっても過言ではありません。

犬の指間炎のときに気をつけたいこと

犬の指間炎の治療を効果的に行うコツとして、犬にいかに患部を気にしないで過ごせるかによるところがポイントです。その子の性格による影響も大きく左右しますが、神経質な子の場合は、直接顔が患部に届かないようにするための工夫が必要です。

例えば、エリザベスカラーをつける、あるいは足先を保護するための靴下を履かせるといったものです。ただ、これらを装着することによってかえって気になってしまう場合がありますので、見極めが必要です。半日~1日くらいでその状況に慣れていきますが、個体差があります。ご自身で判断するのが難しい場合は、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。

塗り薬が比較的使いにくいケースになりますので、できるだけ塗り薬を使わない、あるいは使う必要がある場合には塗り薬を使うタイミングの工夫をしてみましょう。例えば、食事前に薬を付けると、薬を塗られたことより目の前にあるおいしい食事に気が向きやすくなります。

つまり薬を塗られたことを忘れやすくなりますので、失敗しにくい方法となります。お散歩前も同様の理由で有効なタイミングといえますが、塗り薬を塗ったことでかえって指間に汚れが付きやすくなるようであれば控えた方が良いでしょう。

食養生も重要です。一見食餌とはあまり縁のない指の間のトラブルかもしれませんが、皮膚の一部です。皮脂の分泌過剰や乾燥など皮膚のバランスの乱れに由来する指間炎症であれば、皮膚をいたわるフードを使用することで改善に導くこともできるかもしれません。

皮膚や被毛を健康な状態に保つことによって、体全体の皮膚を良好にすることが出来ます。これがひいては指間炎改善に大きく貢献するということにつながります。

こんなことで指間炎がよくなるワンちゃんも

指間炎は皮膚炎になりやすい犬で発症するリスクが上がります。逆に言いますと、皮膚の状態が改善しますと、指の間をなめたり気にする仕草が減ることがあります。また一度かゆみを覚えてしまうと、気になって仕方がなくなります。気にしやすい性格、ストレスのかかっている状態であればこれらの行動を助長することがあります。

ストレスがかかっている状態であれば、それを取り除く配慮をすることで効果を上げることがあります。ストレスは生活する中で知らず知らずのうちに生じ、そして溜まっていくものです。お散歩の時間が適正かどうか、心身ともに健康な状態を保てているかどうか今一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

指間炎にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

さて、ここまで犬の指間炎にスポット当てて説明してまいりましたが、指間炎にならないようにするにはどうしたらよいでしょうか?

1.足の裏は常に清潔に保ちましょう

足の裏の毛が伸びすぎていませんか?、爪の長さにも気を付けてあげましょう。お散歩に行った際にガラス片や鋭利な石、虫、植物など、足の裏に刺激を与える要因がたくさんあります。お散歩のあと、よく観察して必要に応じて汚れをきれいにふき取ってあげましょう。

2.皮膚の健康も同時に考えてみましょう

皮脂の分泌やアレルギー体質の犬の場合、とりわけ指間炎にかかりやすくなります。食事や、シャンプーなど日常生活に密接している部分のちょっとしたところに気づかいと工夫をすることで指間炎になりにくくなることが期待できます。

3.足をなめさせないような工夫と配慮をしてみましょう

足の裏に直接刺激が加わること以外に、ストレスが原因あるいは気を引く行為として必要以上に肢端をなめることも原因となります。神経質な犬では、とりわけ顕著に影響が現れます。

個体にあった生活環境や運動、そして気を引こうと意図的に肢を舐めているときは、声をかけるとかまってもらったと誤解してしまうことがあります。その場合は、声をかけずその場からおうちの方がいなくなるなど、かまってもらいたい心理の逆の行動をとることで改善に導く「行動療法」が有効となる場合があります。これにはいくつかポイントがあり、個々によって条件が異なることがあります。かかりつけの獣医師からアドバイスを受けてみましょう。

○参考文献

小動物のための5分間コンサルト 犬と猫の診断・治療ガイド インターズー

増田国充先生

経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院

所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員