放っておくと大変なことに!犬の皮膚炎糸状菌を良くする3つのポイント【獣医師執筆】

放っておくと大変なことに!犬の皮膚炎糸状菌を良くする3つのポイント

執筆者:増田国充先生(獣医師)

犬の皮膚糸状菌症について

皆さんは皮膚糸状菌というものをご存知でしょうか?非常に簡単に言えば「カビ」による皮膚病ということになります。しかしながら、一般に「カビ」と呼ばれる真菌の中は非常に多くの種類があり、すべての真菌が皮膚に悪い影響を及ぼすということではありません。

皮膚糸状菌と呼ばれる真菌はワンちゃんに対して広い範囲で皮膚に問題を生じることのある病原体です。とりわけ爪の生え際や顔面に発症することが多いとされますが、基本的に皮膚のどの場所にも生じうるものといえます。

典型的な皮膚症状は「輪状脱毛」や「リングワーム」といい、円形に脱毛が発生します。ただ、それだけではなくフケの量の増加するケースや、皮膚が赤みを伴うこともあります。かゆみが必ず存在するわけではなく、かゆみがないにもかかわらず上記のような皮膚病変を発生することもあります。経過が長いと皮膚に色素沈着というシミのような皮膚の変色が生じることがあります。

この皮膚糸状菌が直接皮膚に影響を与えるだけでなく、他の病原体が複合してしまうと、診断がさらに難しくなるほか、治療の長期化につながることもあります。例えば、細菌感染や皮膚に寄生する毛包虫のようなダニの存在は皮膚病を重症化する可能性があります。このように皮膚に対して様々な病変を起こすため、診断は慎重に行っていきます。

一方で、少々厄介な点として皮膚糸状菌が皮膚や爪に存在しても症状を発しない事があります。その場合、知らず知らずに他のワンちゃんに感染を拡大してしまうことがあるため、多頭飼育の場合はとりわけ注意が必要となります。複数のワンちゃんと生活している場合は、同時多発的に発症することがあります。

皮膚糸状菌は高温多湿な環境を好みます。季節を問わず見られる感染症ですが、とりわけ春から秋にかけて増加傾向となります。

犬の皮膚糸状菌症の原因

皮膚糸状菌症をおこす原因は真菌なのですが、とりわけ犬でよく検出されるのが、Mycrosporum canisMycrosporum gypseumTrichophyton mentagrophytesという学名の真菌です。発育しやすい箇所が菌種によって異なりますが、主に土壌、動物、ヒトに分けられます。

一般に真菌の感染症は接触によって病変が作られることが多いのですが、これは必ずしもそれらの病原菌と接触を必要としないことがあります。また、複数の真菌を同時に感染してしまうこともあります。これらの原因菌をきちんと見極めていくこととなりますが、似たような病変を起こす皮膚病が多いため鑑別のため、いくつかの検査を行っていきます。

一般的な方法はウッド灯といわれる特定の波長を発する紫外線ランプを使って、病変部分が蛍光色に反応するかを確認します。さらに病変部の被毛や皮膚を顕微鏡で観察し、どのような菌なのかを調べます。最終的に病原真菌の培養を行って上記のような真菌であることを確定するといった手順を踏むことが一般的です。

人獣共通感染症である皮膚糸状菌症

皮膚糸状菌を起こす原因である真菌は、別名「白癬菌」と呼ばれます。この白癬ということばからヒトの水虫を想像される方もいらっしゃるのではないでしょうか。犬で皮膚糸状菌は人にも影響を及ぼすという点が非常に重要となります。

人間と動物が共通した病原体によって起こす感染症を「人畜共通感染症」または「ズーノーシス」といいます。犬の皮膚病が人間に伝染するということを意味しますので、適切な対応を行うことがことさら重要になるということになります。

動物が皮膚糸状菌症に罹ってしまった場合は動物病院での治療が必要となりますが、飼い主さんに何らか皮膚病変が生じた場合は、必ず「人間の」皮膚科さんを受診しましょう。その際、皮膚科医の先生に動物を飼育していることをお伝えください。人間の場合でも免疫力が低下している場合や、原因病原体が複数に及ぶようなケースでは治療期間が長くなることもあります。

皮膚糸状菌症になりやすい条件

皮膚糸状菌に関して言いますと、特定の犬種がかかりやすいということではありません。むしろ、ワンちゃんのライフステージによって発症が起こりやすい時期があります。それは成長段階の非常に若い月齢と高齢期です。いずれも、十分な免疫力を持ち合わせていない状態になりやすく、そこに真菌が感染し発症してしまうことになるのです。

また一方で環境による影響も無視できません。先ほども述べました通り、多頭飼育になると感染・発症リスクが上がります。そこにワンちゃんたちの生活環境が十分な清潔さを保てなくなると、さらに問題が大きくなります。

このように、ワンちゃんが十分に健康で免疫力があり、さらに住環境が清潔に保たれているかどうかがポイントとなります。

犬の皮膚糸状菌症の治療方法

皮膚糸状菌は、先ほど述べたように人にも伝染する皮膚疾患であるため、きちんとした治療が必要とされます。主な治療法を挙げますと、飲み薬、塗り薬、シャンプー療法などがあります。いずれの場合も抗真菌薬の成分が含まれているものを使用します。

例えば、イトラコナゾールやケトコナゾール、シャンプーや塗り薬ではミコナゾールといわれる成分が含有されているものを使用します。以前は抗真菌薬の服用で副反応が心配されるものもありましたが、現在では上記のようなお薬で比較的安全に使用できるようになりました。とはいえ、一部の抗真菌薬は肝臓に負担をかけることがあることが知られていますので、治療中は肝臓の機能を確認しておく必要があります。

皮膚糸状菌症が重度の場合は、真菌以外の病原体も影響を与えていることがあります。例えば、細菌感染がある場合は抗生物質、寄生虫の存在が疑われる場合は駆虫薬を使用します。さらにかゆみが非常に強い場合は、かゆみ止めの作用のある抗ヒスタミン薬を使用します。皮膚糸状菌症の場合、ステロイド薬は感染を助長する恐れがあるので原則として使用しません。

塗り薬は、病変のある部分より、やや広めに使用し、外側から内側に向かって塗ると病変の拡大を予防できることがあります。せっかく塗った薬を舐めて取ってしまわないように、食事や散歩前にお薬を塗るといいかもしれません。必要に応じ、エリザベスカラーを使用するといった工夫が必要となります。

シャンプー療法は、有効成分をしっかりと患部に浸透させることがポイントとなりますので、すぐに洗い流さず10分程度そのままシャンプー液をなじませてからしっかりすすいでください。

後述しますが、治療の際に感染の拡大とご自身に影響が及ばないように注意しましょう。

皮膚糸状菌症のときに気をつけたいこと

もし、おうちの愛犬が皮膚糸状菌症と診断されたらどうすればよいでしょうか?きちんと治療をすれば治る感染症ですので悲観することはありません。ただし、飼育環境についてよく見直しをする必要があるかもしれません。特に多頭飼育の場合は、感染拡大を起こさないような配慮をしなくてはなりません。皮膚糸状菌症のワンちゃんと健康な個体との接触を避けましょう。もし、他のワンちゃんに皮膚病変がみられた場合は速やかに診察を受けでください。

皮膚糸状菌自体が人間にも悪さをすることを忘れてはいけません。皮膚糸状菌症のワンちゃんに触れる際は、使い捨てのビニール手袋を使用することが推奨されます。もしくは触れた後にしっかりと手洗いを行うことです。人間の場合も免疫力が低下しているところに感染を許してしまう恐れがありますので、注意が必要です。

こんなことで皮膚糸状菌症がよくなったワンちゃん

獣医師から指示された治療をきちんと行うことがまず重要といわなければなりません。それ以外で、先ほど述べたことのほかにちょっとしたポイントがあります。皮膚糸状菌症は非常に若い時、あるいは高齢になっているときの特に「免疫力が不完全な状態」の時に感染するリスクが高くなります。

免疫力が低下しているときに皮膚のバリア機能が十分に発揮されないために感染を許してしまうという風にとらえることもできます。ということは、基礎的な体力を確保しながら免疫力を向上させることにも工夫してみると、早期改善につながる可能性があります。

これらを満たすためには、必要とされる栄養を十分に取り入れること、過剰なストレスがかからないようにすること、さらに補助的に免疫力向上が期待できるサプリメントを食事にプラスすることなどが挙げられます。

繰り返しになりますが、必要とされる治療が行われていることが第一優先ですのでお忘れなく。

皮膚糸状菌症にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

基本的に、動物側と住環境の両面で適正な条件が整っていれば、それほど脅威になるものではありません。ただ、生活している中で体調不良や他の病気ケガに合わせて発症してしまうこともないわけではありません。そういう意味では、何か特別なことに注意するということではなく、我々人間やワンちゃんたちにとって快適な環境を維持することが結果として予防につながります。

従いまして、

・ワンちゃんの健康維持、特に免疫力を保つ

・清潔で快適な住環境を整える

・日頃ワンちゃんの様子をよく観察する

この3点にお気を付けいただければ原則大丈夫と考えます。

多頭飼育の場合はいざ発症すると集団感染に至る場合も想定されますので、個体の健康管理がより一層重要となります。

皮膚病全般に言えることですが、何らかの原因でワンちゃんに皮膚病片がみられた場合は、様々な原因を考慮する必要があります。さらに、今回ご紹介したようなヒトにも影響の及ぶ感染症である可能性も考慮しておかなくてはなりません。そのため早めにかかりつけの獣医師の診察を受けましょう。

皮膚糸状菌症と診断された際には、治療と合わせて衛生管理にも気を配り、早期治療ができるようにおうちの方も率先してケアに参加しましょう。適切な治療で治る皮膚病ですので過剰に怖がる必要はありませんが、こじれると厄介な面があります。飼い主である人間の健康のためにも、愛犬の皮膚の様子を日頃からよく観察してみてください。

増田国充先生

経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院

所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員