マラセチア外耳炎の治療法と予防や日ごろのケアの3つのポイント【動物看護師執筆】

犬のマラセチア外耳炎について

執筆者:竹内Coco先生

動物看護士、動物病院勤務

犬の外耳炎は動物病院に来られる患者さんの来院理由として、比較的多いものです。外耳炎とはその名の通り、外耳に炎症が起きている状態。

その中でもマラセチアという真菌(カビ)が原因で起こっている炎症のことを、マラセチア外耳炎と言います。

真菌(カビ)が原因のマラセチア外耳炎は、しつこく、再発を繰り返してしまうことの多いやっかいなものです。

マラセチア外耳炎の症状

  • 耳をかゆがる
  • 耳が赤くなる
  • 頭をよく振っている
  • 耳から独特の悪臭がする
  • こげ茶色や黒に近い耳垢が増える
  • 耳を触ると異常に嫌がる、怒る

これらの症状がある場合は、マラセチアによる外耳炎かもしれません。

マラセチア菌とは

犬の耳にカビがついているというと驚かれる飼い主さんも多いものですが、マラセチア菌は通常健康な動物の皮膚にも存在している、常在菌です。

犬はもちろん、猫やわたしたち人間の皮膚にもいる菌なんですよ。普段は大人しく、皮脂などを食べて静かに暮らしています。

しかし、このマラセチア菌がなんらかの原因により異常に増殖してしまうと、皮膚に炎症を起こします。その症状が耳で起こった場合に、マラセチア外耳炎となってしまうのです。

犬のマラセチア外耳炎の原因

もともと、犬は外耳炎になりやすい動物と言われています。

その理由は、通気性の悪さ。犬の外耳道は真ん中辺りで直角に曲がっています。さらにその奥に鼓膜があり、鼓膜付近は非常に狭くなっているのです。

犬の外耳は通気性が悪く、蒸れやすい構造になっていると言えるでしょう。蒸れやすいということは、カビが繁殖しやすいということです。

さらには次の4つがマラセチア外耳炎の原因になってしまいます。

①皮脂の増加

マラセチア菌の餌は皮脂なので、皮脂が過剰に分泌されると増殖しやすくなります。皮脂の分泌が多い犬は耳にも同様に皮脂が多く、マラセチア外耳炎になるリスクが高いと言えます。

そのほかには、内分泌や免疫に異常があり、ホルモンのバランスが崩れ、皮脂が増加していることも考えられます。

②高温多湿

マラセチア菌は真菌(カビ)ですので、梅雨頃~夏のジメジメした気候のときに活発に繁殖します。この時期はマラセチア外耳炎になる子が増える傾向にあるんです。

高温多湿の環境は、マラセチアにとって絶好の繁殖環境。特に毛が密集している耳は、一度濡れると乾きにくく、マラセチア菌が増殖しやすい場所なのです。

③免疫力の低下

犬は老化を始め、ストレスなど様々なことが要因となって免疫力が落ちることがあります。免疫力が落ちると、普段大人しく悪さを起こさない菌にも体が負けてしまいます。

免疫力の低下はマラセチア外耳炎だけでなく、色々な病気に対する力も弱ってしまうため、特に気を付けてあげたいポイントです。

④耳の状態の悪化

耳の状態が悪い場合にも、マラセチア外耳炎になってしまいます。状態の悪化が一時的なものであれば、すぐに完治することもありますが、慢性的なものであれば時間がかかり、再発を繰り返しやすくなります。

○怪我や傷による炎症

なんらかの原因によって耳に怪我をした、または耳掃除で傷をつけてしまったなどの外傷があるとマラセチア外耳炎になってしまうことがあります。

ですが、傷が原因である場合は、その傷が治り炎症が引けばマラセチア外耳炎も治ることが多いようです。

○別の外耳炎からの併発

アトピー性皮膚炎などのアレルギー性外耳炎を持っていると、マラセチア外耳炎を併発することがあります。

このような場合には、元となる病気の治療をしなければすぐに再発してしまい、完治が難しくなってしまいます。

マラセチア外耳炎になりやすい犬種

マラセチア外耳炎になりやすい犬種としては

・皮脂の分泌が多い体質の犬種
・垂れ耳の犬種
・アレルギーを持っていることの多い犬種

が挙げられます。

【好発犬種】

アメリカン・コッカースパニエル、レトリバー系、ダックスフント、プードル、柴犬、フレンチブルドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリアなど。

比較的、犬種にこだわらずどの犬種でも起こり得る疾患です。

マラセチア性皮膚炎になりやすい犬種は、皮脂が過剰に分泌していることが多いので、同じようにマラセチア外耳炎にもなりやすいと言えます。

マラセチア外耳炎の治療方法

一度マラセチア外耳炎になってしまうと、自然と治るものではありません。皮脂の増加などに伴い、マラセチアはどんどん増殖し、悪化していく傾向にあります。

細菌に感染してしまうと耳道が赤く腫れ、とても痛がることもあるんですよ。ここまでくると治療をするにも痛みを伴うので、とてもかわいそうです。あまりに痛みがひどい場合には、治療ができず余計に長引いてしまうことも。

なるべく早く治療を開始してあげることが、愛犬のためにも、早く完治させるためにも重要なポイントです。

マラセチア外耳炎の治療法には次のようなものがあります。

外耳道の洗浄

まずは、茶色や黒に近い耳垢で汚れた外耳道を綺麗に洗浄します。増えてしまったマラセチア菌を物理的に取り除くためです。

耳洗浄液やシャンプー液を入れて洗浄します。奥の方の耳垢は、犬が自分で頭を振って出してくれることもありますし、外側はコットンなどで優しく拭き取ります。

濡れているとまたマラセチア菌が増えてしまうことになるので、しっかりと水分を取り除くことが大切です。

外用薬(点耳薬)

外耳道内を綺麗に洗浄したあとは、薬を耳の中に点耳します。ローションやクリームタイプなどがあり、耳の状態に合わせたものを使用されるでしょう。

外用抗真菌薬が使われますが、ステロイドや抗菌剤との合剤になっているものが多いですね。

内服(飲み薬)

あまりに痒みがひどい場合や、腫れていて痛みを伴い、耳の処置ができない場合には飲み薬が処方されることもあるでしょう。

まずは飲み薬で痒みや、腫れ、痛みを引かせます。ステロイド剤や抗生物質が処方されることもあります。抗真菌薬としては、ケトコナゾールやイトラコナゾールが使用されることが多いです。

飲み薬は効果的ですが、耳だけでなく全身に作用してしまうもの。また、少なからず副作用もありますので獣医師がしっかりと診察し、一時的に症状を抑える目的で使用されることが多いでしょう。

基礎疾患の治療

マラセチア外耳炎はアトピー性皮膚炎などのアレルギー性外耳炎が原因となっていることがあります。また、内分泌疾患のせいでホルモンのバランスが崩れ、皮脂が増えている可能性も考えられます。

このような場合には、元となる病気を治療しなければすぐに再発してしまうことの多い病気です。マラセチア外耳炎には、隠れた病気が潜んでいることもあるので、注意が必要でしょう。

サプリメント

点耳薬は外用薬として使い、内側から治す目的としておすすめなのがサプリメント。サプリメントは薬とは違いますので、副作用もなく安心です。

免疫力の低下によりマラセチア外耳炎になってしまうことはよくあるので、免疫力を高めるためにサプリメントを取り入れることはとても効果的ですよ。

マラセチア外耳炎のときに気をつけたいこと

治りにくく、再発しやすいマラセチア外耳炎。なるべく早く治してあげたいですよね。愛犬がマラセチア外耳炎になってしまったときには、次のことに注意すると治療がスムーズに進みやすくなります。

自宅での耳のケア

マラセチア外耳炎のときには、菌の繁殖を防ぐため、清潔にしておくことが重要です。点耳薬が処方されることが多いと思いますが、適切な回数、量を守って点耳してあげましょう。

耳の状態にもよりますが、病院では「自宅での耳掃除は控えて下さい」とお願いすることも多いんですよ。飼い主さんが良かれと思って行った耳掃除で、耳道を傷つけてしまうことがあるからなんです。それによって症状が悪化してしまうことも。

耳掃除を自宅でしても良いと言われた場合には、必ず病院で処方してもらった洗浄液を使ってください。

耳洗浄のやり方は次の通り。

  1. 洗浄液を耳の中に入れて、耳垢をふやかします。
  2. 耳の根元を数回揉みこみます
  3. 愛犬が自分で頭を振ってくれれば中の水分や耳垢が出てきます。
  4. 外側の表面についた汚れは軽くコットンなどで拭き取ってあげましょう。

綿棒を自宅で突っ込んで掃除をすることは悪化の原因になるのでやめておいてくださいね。

耳を濡れたままにしない

マラセチア菌はカビなので、高温多湿な場所を好みます。耳の中は暖かく、濡れているとジメジメとして、カビの繁殖には絶好の場所になってしまいます。

シャンプーをするときは、できるだけ耳の中に水を入れないようにしましょう。濡れてしまった場合は水分をしっかりと拭き取ってあげてください。

掻かせない

マラセチア外耳炎はほとんどが、強い痒みを伴います。そのせいで後ろ足で耳をずっと掻いていることも多いでしょう。

ですが、あまりに掻きむしってしまうと耳に傷がつき状態は悪化してしまいます。傷から炎症が拡大したり、細菌感染したりしてしまうこともあるのです。

少しかわいそうですが、ひどく掻いている場合にはエリザベスカラーをつけるなどして、耳を保護しましょう。

マラセチア外耳炎にならないために、予防や日ごろのケアの3つのポイント

マラセチア菌は、普段は大人しい常在菌です。感染したりする病気ではないので、他の犬との接触に気を使う必要はありません。

一度かかってしまうと治療に時間がかかることも多いマラセチア外耳炎。かからないように、日常生活で気を付けておくポイントが3つあります。

この3つに気を付けて、まずは予防をしてあげることが大切です。

1.自宅での過度な耳掃除は控える

意外かもしれませんが、自宅での耳掃除は予防としては控えた方が良いでしょう。マラセチア外耳炎になったときには、こまめに耳掃除をしますが、健康な犬の耳であればそれほど耳掃除をする必要はありません。

もちろん清潔にしておくことは重要ですが、過剰な耳掃除により逆に外耳炎になってしまう子が多いのも事実です。

犬は本来、自分で耳の中の微生物のバランスを保っているので、必要以上に洗浄してしまうと、バランスが崩れバリア機能まで失われてしまいます。また、綿棒を突っ込んでしまうことで耳垢をより奥に押し込んでしまうこともあるのです。

自宅での過度な耳掃除のせいで炎症が起きてしまい、病院に来るワンちゃんも多いんですよ。

皮脂が多すぎる子や汚れが目立つ子などの場合は、先程説明した耳の洗浄方法で軽く表面の汚れを落としてあげるようにしましょう。

耳掃除をするよりは異常がないかどうか、こまめに耳のチェックをしてあげるほうが重要です。

2.生活環境に気を配る

免疫力の低下はマラセチア外耳炎を始め、様々な病気になりやすくなってしまいます。免疫力の低下を防ぎ、病気を予防するにはまず、健康的な生活が第一です。

ごく一般的に健康と言われる生活を送らせてあげることが、何よりの予防に繋がることが多いのです。

○適度に運動をさせてあげる

筋力や体力を維持するためには適度な運動が大切。年齢とともに足腰は弱ってくるものですが、負担をかけない程度に運動をさせてあげることで筋力や体力の低下を防ぐことができます。

運動不足によるストレスで免疫力が低下してしまうこともあるので、適度に運動をさせてあげましょう。

○ストレスをかけない

ストレスには、様々なものがあります。近所での工事の音、長時間のお留守番、飼い主さんには想像のつかないことがストレスになっていることも。愛犬の様子に気を配り、ストレスを受けていないか注意して見てあげましょう。

○食事の見直し

もう一つ気を付けたいのが食事。糖質や脂質が多く、栄養バランスの偏った食事は、皮脂を増加させることがあります。

アレルギーなどの基礎疾患によりマラセチア外耳炎を起こしている場合には、食事の見直しも視野に入れましょう。

また、老化による免疫力の低下はフードの見直しでも改善することができます。ビタミンなどの抗酸化物質は免疫力を上げる手助けをしてくれる栄養素です。

EPAやDHAなどのオメガ3系多価不飽和脂肪酸は抗炎症作用を持っているので、皮膚の炎症を抑える効果が期待できるでしょう。

これらを含んだ質のよいフードを与えてあげることも重要です。

3.サプリメント

全ての栄養素を食事だけで補うのは難しいことがあります。そんなときにはサプリメントを取り入れてみるのも効果的。

EPAやDHAなどを含んだサプリメントは炎症を抑え、綺麗な皮膚を保つのに役立ちます。
内側から免疫力を高めるにはキングアガリクスがおすすめです。本来、体が持っている免疫細胞を活発化させるので、病原体への抵抗力が高まります。

飼い主さんが飲んでも大丈夫、添加物不使用の安心なサプリメントですから、予防として長期的に与えることができますよ。

犬のマラセチア外耳炎のまとめ

マラセチア外耳炎は、マラセチア菌という通常悪さをしない真菌が、異常に繁殖することで炎症を起こす外耳炎。

激しい痒みや嫌な臭い、茶色っぽいベタベタした耳垢が出るなど、愛犬にとっても飼い主さんにとってもストレスの多い病気です。また真菌(カビ)が原因なのでしつこくやっかいな病気でもあります。

日ごろから耳を清潔に保つように心がけ、時々耳のチェックをしてあげて、異常がないか気にかけてあげてくださいね。

健康的な生活を送ることが何よりの予防になると言えるでしょう。

参考資料:小動物皮膚科専門誌 Small Animal Dermatology 38号

執筆者:竹内Coco先生

動物看護士、動物病院勤務大阪コミュニケーションアート専門学校ペットビジネス科ペットトリマーコース(現在の大阪ECO動物海洋専門学校)卒業。ペットショップ勤務を経て、現役動物看護士。動物病院で勤務している立場から、「正しい知識を持ってペットと幸せに暮らしてもらいたい」という気持ちで正確な情報をお届けします。