治りにくい犬のマラセチア外耳炎。原因・症状・治療と日頃のケアの4つのポイント【小動物看護士執筆】

犬のマラセチア外耳炎について

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士

外耳炎とは、耳の穴の入り口周辺から鼓膜の手前まで続く外耳道に炎症ができる病気のことです。動物病院で診療するすべての診療の中で、犬の外耳炎は15〜20%を占めていると言われているほど多発する疾患です。

一口に外耳炎と言ってもさまざまな種類があり、外耳炎をおこした外耳に溜まった耳垢にマラセチアが過剰に増殖してしまったものをマラセチア外耳炎と呼びます。

では、マラセチアとはどのようなものなのでしょうか。

マラセチアとは酵母様真菌の一種で、健全な皮膚を維持するために必要な、皮膚の表面に常に存在している常在微生物です。したがって、マラセチアがいること自体に問題はありません。しかし、それが外耳炎を起こしているところに過剰に増殖し、感染してしまうことで、厄介な症状を引き起こしてしまうのです。

マラセチアが生活するためには、皮脂が必要です。そのため、脂漏症のように皮脂が過剰な状態だと増殖する傾向にあります。また、マラセチアは湿気を好みますので、耳の穴を塞いでしまう垂れ耳の犬種もマラセチアが増殖しやすい傾向にあります。

マラセチア外耳炎に罹ると、耳垢がベタベタしたワックス状で臭くなり、かゆみを伴います。そのため、犬はしきりに耳をかこうとしたり、頭を振ったりします。また、外耳道の皮膚が厚くなり、外耳道が狭くなってきます。

マラセチアは常在微生物なので、治療によりマラセチアを減らすことで症状が改善したとしても、マラセチアを増殖させる要因を見極めて適切な管理を行わなければ、何度も再発してしまいます。マラセチア外耳炎の背景には脂漏症やアトピー性皮膚炎が関与していることが多く、この複雑性が根治を難しくしています。

犬のマラセチア外耳炎の原因

外耳炎は、複数の要因が複雑に絡んで発生します。外耳炎の主因を見極め、合わせて副因、増悪因、素因を潰していく必要があります。特に、主因と素因に対する適切な対処が、外耳炎を完治させられるか何度も再発を繰り返すかを左右するといえるでしょう。

1.主因

単一で外耳炎を発症させることが可能な原因のことを主因と言います。マラセチア外耳炎の主因として多いものに、下記が挙げられます。

・脂漏症

・アトピー性皮膚炎と食物アレルギー

マラセチアが増殖した要因については、マラセチアの増殖がみられた年齢から推測できます。マラセチアの感染は外耳道だけではなく、顔のシワ、首の内側、脇、股、指の間、尻尾の付け根などにもマラセチア皮膚炎という形で現れますので、これらも含め、マラセチアの増殖がみられた時期により、下記のように推測するのが一般的です。

・3〜6ヶ月齢:遺伝的な要因により、生まれつき脂漏症を持っている

・3歳未満:背景にアトピー性皮膚炎がある

・中高齢:代謝異常などの要因により脂漏症を発症した

2.副因

主因によって外耳炎が起こった結果、二次的に付随する原因のことを副因と言います。マラセチア外耳炎の場合、副因はマラセチアになります。

3.増悪因

外耳炎が発症したことで耳の構造に変化が起き、外耳炎をより重症化させてしまう原因が、増悪因です。主な増悪因として、下記が挙げられます。

・耳道の浮腫や狭窄

・耳垢過多や上皮移動障害

・分泌腺の閉塞/拡張、炎症

・鼓膜の変化/破綻

・耳道周囲の石灰化

・中耳病変

外耳炎の初期の増悪因は、浮腫、耳垢過多、上皮移動障害が主となります。これらは点耳薬や耳の洗浄で改善できます。

4.素因

外耳炎の発症リスクを高める原因が素因です。つまり、素因は外耳炎を発症する前から存在しています。代表的な素因としては、下記が挙げられます。

・耳の形態的問題(耳毛が多い、垂れ耳、耳道が細い)

・湿性環境(熱刺激、多湿、耳内への水の浸入)

・耳の中のポリープや腫瘍

・中耳炎

・衰弱や免疫力低下

・過剰な治療処置による耳構造の損傷

マラセチア外耳炎になりやすい犬種

脂漏症またはアトピー性皮膚炎に罹りやすい犬種が、マラセチアの感染を起こしやすい犬種となります。

脂漏症に罹りやすい犬種は、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーなどです。

アトピー性皮膚炎に罹りやすい犬種は、柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール/ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリア、ワイヤーへアード・フォックス・テリアなどです。

特に注意したいのは、脂漏症とアトピー性皮膚炎の双方に罹りやすいウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアとシー・ズーで、マラセチア外耳炎やマラセチア皮膚炎の感染には十分な注意が必要です。

マラセチア外耳炎の治療方法

まずは主因を特定し、主因に対する治療を行います。

前述の通り、マラセチアは生活するために皮脂を利用するため、皮脂が過剰な状態になる脂漏症が主因であることが多いです。その場合、脂漏症の治療として、定期的な耳の洗浄、栄養管理、環境管理を行います。耳の洗浄には、サリチル酸などの角質を溶かす成分を配合した洗浄液を使用します。

主因による治療の他、副因、増悪因、素因それぞれへの対処を行います。副因であるマラセチアへの対応としては、抗真菌薬による耳の洗浄による除去を行います。

ただし、脂漏症が主因であってもアトピー性皮膚炎を併発しているケースも多いので、その場合は抗真菌薬ではなく、低刺激の薬剤を選択します。抗真菌薬では、皮膚バリア機能に与える負担が大きくなりすぎるからです。

*皮膚バリア機能:皮膚が持っている、外からの異物侵入と内からの必要成分漏出を防御する機能のこと

これらの治療をしながら症状の改善状況を観察し、改善されない場合はアレルギー性疾患の併発も疑い、治療方針を見直します。

素因の要素として、『衰弱や免疫力低下』というものがありますが、この場合、前述の治療と併せて免疫力を高めるサプリメントを服用することもおすすめの方法です。

外部から体内に侵入してきた異物を取り除き、感染症から身を守るための体の仕組みが免疫です。したがって、免疫力が低下すると、ごく一般的な環境にいても健康を崩しやすくなってしまうのです。

免疫力を向上させるサプリメントを服用することで、体の内側から過剰に増殖したマラセチアに対する抵抗力を高めることができます。

免疫力を高める漢方薬として昔から有名なものに、アガリクスがあります。アガリクスとはハラタケ属のキノコの総称で、抗腫瘍作用や免疫力増強作用に注目を浴びており、さまざまなアガリクスのサプリメントが出ています。

その中でも、ブラジル産露地栽培のアガリクス100%で添加物を一切入れずに製品化されている「キングアガリクス100ペット用」は、日本獣医がん学会でも研究報告されていて、安心して飲ませられるサプリメントだと言えるでしょう。

マラセチア外耳炎のときに気をつけたいこと

マラセチア外耳炎に罹った場合の愛犬のケアで気をつけたいことについて、耳のケア、食餌管理、環境管理、シャンプーの選び方の4つの観点で説明します。

1.耳のケア

基本的に、耳のケアは健康な状態では必要ありません。耳垢は自然に排出されるからです。耳垢は、自然に外耳道から耳介に排出されます。したがって、外耳に耳垢があるのが普通の状態なので、それを取ろうとする必要はありません。正常な状態の耳垢を取ろうとすると、かえって外耳炎の原因になります。

マラセチア外耳炎になってしまった場合でも、綿棒で耳垢を取るのは、耳介の部分のみにしてください。犬の外耳道は耳の穴から垂直に下り、L字型に曲がって水平に鼓膜へと続く形状をしていますので、外耳道で綿棒を使うと耳垢をL字の角の部分に押しやってしまい、かえって耳垢を溜めてしまうことにもなりかねません。

また、耳洗浄を行う場合は、動物病院でしっかりと外耳と鼓膜の状態を確認してもらってからにしましょう。炎症などで外耳壁が損傷している場合は薬剤の成分が低刺激のものを選ぶ必要がありますし、鼓膜に穴が空いている場合は薬剤が中耳にまで入ってしまって聴覚に良くない影響を与えてしまいます。

耳洗浄の薬剤は、水性製剤と油性製剤があり、さらに油性製剤にはクレンジングタイプとプロテクタータイプの薬剤があります。クレンジングタイプや水性製剤による洗浄は、飼い主さんが自宅で行うには難しいため、自宅で行う場合はプロテクタータイプが使用しやすいでしょう。

いずれにしろ、動物病院で獣医師とよく相談し、洗浄方法も病院でしっかり指導してもらいましょう。

なお、病院で練習する時には獣医師や看護士がそばに居てくれるので良いのですが、自宅に戻ると不安になる飼い主さんが多いようです。耳洗浄は外耳道に洗浄剤を満たしてマッサージを行うため、飼い主さんがおっかなびっくりしながら行うと、犬はもっと不安になってしまいます。自宅でも、落ち着いて自信を持って行いましょう。

2.食餌管理

マラセチア増殖の要因となる脂漏症は、年齢に合った栄養バランスが取れていない食事や、糖質や脂質の過剰給与によっても悪化します。そのため、栄養管理としてその犬の年齢にあった栄養バランスとなるように食餌内容を調整したり、場合によってはビタミンA・必須脂肪酸などを給与したりすることも必要です。

3.環境管理

マラセチアは高温多湿を好みますので、環境が高温多湿な場合は改善が必要です。特に高温多湿となる夏の間は、室温25〜28℃、湿度60〜70%を目安に維持しましょう。

マラセチア増殖の背景にアトピー性皮膚炎がある場合は、環境からアレルゲンを排除します。具体的には、小まめな清掃や服の着用などです。食物アレルギーの場合は、食餌内容にも注意が必要です。

また、ストレスにより症状が悪化することも少なくありません。日常の生活の中で、愛犬のストレスを排除するように注意が必要です。特に、東日本大震災以降は、天候の悪化、騒音、地震発生によりかゆみが悪化するという症状が顕著に表れている例もあるようです。自然災害時の愛犬のストレスケアについても気を使ってあげましょう。

4.シャンプーの選び方

皮脂汚れを除去するためには、高級アルコール系の界面活性剤や角質溶解剤、脱脂剤等を含んだシャンプーが効果的です。しかし、アトピー性皮膚炎も併発している場合は、皮膚バリア機能への影響を考慮する必要があるため、低刺激の界面活性剤と保湿剤を配合したシャンプーを用いる方が良いでしょう。

マラセチアの増殖を抑えるためには、抗菌作用のあるミコナゾールやクロルヘキシジン、ピロクトンオラミンなどを含んだシャンプーが効果的ですが、基本は脂漏症やアトピー性皮膚炎に適したシャンプーを使用し、マラセチアが増えた時にのみ抗菌作用のあるシャンプーを併用するという方法が、長期的に考えてもおすすめです。

犬のマラセチア外耳炎のまとめ

マラセチア外耳炎にならないために、予防や日頃のケアの4つのポイント

マラセチア外耳炎にならないために必要な、日頃のケアや予防として大切な4つのポイントを下記にまとめます。

①健康な状態の把握と日々の観察

一番基本的なことは、健康な状態の時の様子を把握しておくことです。健康な時の耳の匂いや普段のしぐさなどを、しっかりと把握しておきましょう。それに対して変化が見られたら、すぐにおかしいなと気づくことができるからです。変化とは、耳垢が臭い、頭を振る、しきりに耳をかこうとする等です。

②適切な耳のケア

過剰な耳のケアは禁物です。前述の通り、健康な場合は原則耳のケアは不要です。特に、綿棒を使って外耳道の耳垢を取ろうとするのはやめましょう。ただし、プールで泳いだりシャンプーしたりなど、耳の中に水が入った後はよく拭いて乾かしましょう。既に発症してしまっている場合は、獣医師の指示に従い、適切な耳洗浄を適切な頻度で確実に行いましょう。

③栄養管理

皮膚の構成要素を維持するために、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルのバランスが取れた食餌を与えましょう。また、年齢のステージに合わせて必要な栄養バランスが異なりますので、注意しましょう。

④ストレス管理

快適な環境状態を維持し、ストレスフリーな生活環境を整えることも大切です。適度な運動やご家族との触れ合いの時間をしっかりと確保しましょう。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『イラストでみる 犬の病気』講談社

・『トリマーのための ベーシック獣医学』ペットライフ社

・『動物臨床に役立つやさしい免疫学』ファームプレス

nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。