治りにくい犬の脂漏症を良くする3つのポイント【獣医師執筆】

犬の脂漏症について

執筆者:増田国充先生(獣医師)
ますだ動物クリニック院長
比較統合医療学会、日本獣医がん学会

脂(あぶら)が漏れる病気と書く脂漏症について、今回はご紹介します。そもそもこの脂とは、皮脂のことを指します。もともと人間を含め犬でも皮膚の毛穴から皮脂と呼ばれるものが分泌されます。これが過剰に分泌された結果生じる皮膚病のことを脂漏症と呼びます。

毛の生え方

図をご参照ください。犬の毛穴は、単に毛が生えるためのスペースではありません。毛穴の奥には、毛(もう)包(ほう)と呼ばれる被毛が生えていくために必要なスペースがあるほか、皮脂腺と呼ばれる皮脂の分泌腺があります。これは全身に分布しています。

この皮脂が過剰に分泌されることにより皮膚や被毛のべたつきを生じます。さらにその皮脂が空気に触れることによって独特のにおいを発します。かゆみを伴うほか、その皮脂を餌として増殖するカビの仲間であるマラセチアという真菌が皮膚で増殖しやすくなります。

マラセチア

【マラセチアの拡大写真 ボウリングのピンのような形をしたものがマラセチアです】

マラセチア皮膚炎といわれる皮膚病と非常に密接な関係にあります。マラセチアが算出する酵素が皮膚のたんぱく質や脂質を分解し、正常な皮膚構造のバランスを乱すことによって炎症が生じるとされます。

この炎症によってかゆみが生じ至る所を掻いてしまうため、そこから細菌感染を起こす場合もあります。このような本来の原因でない病原体に感染してしまうことを二次感染と呼びますが、脂漏症は二次感染を生じているケースが多い皮膚病の一つといわれます。

主な発生部位は顔周辺、わきや後肢の付け根、四肢や胸腹部です。

脂漏症は大きく分けると、「脂性脂漏症」と「乾性脂漏症」に分類されます。前者は皮膚のべたつきが顕著です。被毛は大量の皮脂でヘアワックスを付けたようなべたつきを持っています。皮膚に脂分の強いフケが付着していることが多く、同時に皮膚の角質層が厚みを持っているケースが多い傾向になります。

後者は湿っぽさがそれほどあるわけではありませんが、毛のツヤがなく乾いた薄いフケが大量に作られます。毛穴に皮脂が詰まりやすいのも特徴です。いずれの場合も大量の皮脂の分泌とそれに関連した微生物の増殖によって生じる「独特の強い脂臭さ」を発します。

脂漏症

【脂性脂漏症の犬の被毛 艶がなく体表全体が脂分でべたついている】

脂漏症

【乾性脂漏症の犬 全体のべたつきは強くないものの大量フケのツヤのない毛が特徴】

犬の脂漏症の原因

本来健康な皮膚でも一定量分泌される皮脂ですが、これが過剰に分泌されて生じるのが脂漏症です。先ほど述べた通り、マラセチアというカビの仲間が増殖することと密接な関係があります。これらの条件を作る原因は様々です。例を挙げてみましょう。

1.栄養のバランスに問題がある

2.アレルギーの体質を持っている

3.ホルモン分泌のバランスが整っていない

4.皮膚の構造に問題がある

5.皮膚の感染症が存在する

などです。

皮膚の最も表面に存在する表皮という部分に角質層といわれる細胞の層があります。この角質層ですが、ヒトであれば「肌のキメ」が整っているか否かを見分けるポイントとなります。それ以外に皮膚が体の外から細菌や異物、化学物質から身を守るバリアとしての機能を持ち合わせています。犬の角質層は人よりも薄いため、実はとてもデリケートな生き物なのです。

皮膚の健康を整えるために必要な栄養成分が不足している場合、あるいは過剰な状態になると外部からの刺激に対し対抗できなくなります。犬の場合は、ω(オメガ)-3やω-6といった良質な脂肪酸、ビタミンAをはじめとするビタミン、や亜鉛などのミネラルが不足することで不調を生じることがあります。

十分な皮膚のバリア機能が維持できなくなると、マラセチアや細菌が表皮で増殖を起こすこととなり皮膚病を生じます。この状態が続くと皮脂の分泌にも異常が生じ脂漏症が悪化していくこととなります。

脂漏症になると表皮に大量の皮脂が存在することとなり、それを餌としてさらにマラセチアや細菌が増殖する原因となってしまいます。長期にわたってこの状態が続くと改善しにくくなり、悪循環になる恐れがあります。

犬のアトピー性皮膚炎や、その他アレルギーを持っている犬では、もともと皮膚のバリア機能が十分でないことが多いので、脂漏症を併発する可能性が高くなります。

一方、体内のホルモン分泌が原因で脂漏症に至る原因の代表として、「甲状腺機能低下症」があります。甲状腺ホルモンはからだの代謝を維持し、元気活力を与えるホルモンです。大型犬で高齢になると、甲状腺ホルモンの分泌量が低下し、皮膚の健康な状態を保つことが難しくなるため、結果脂漏症になるばあいがあります。

脂漏症になりやすい犬種

犬の脂漏症は度の犬種にも生じうるものですが、発症しやすい犬種が存在します。日本でよくみられるのは、シーズー、チワワ、ペキニーズ、アメリカン・コッカー・スパニエル、トイ・プードルが挙げられます。日本の人気犬種の一つであるミニチュア・ダックスも脂漏症になりやすい傾向にあります。

脂漏症の治療方法

脂漏症に対する治療は皮脂が過剰に分泌されていることに由来する諸問題を改善させることにあります。皮脂の分泌を抑えればいい…ということになるのですが、これがなかなかそれだけではうまくいかず、実はかなり奥深いものなのです。

脂漏症の原因についてご紹介した際に、いくつかの問題が複合して皮膚の状況を悪化している場合があると説明しました。つまり、脂漏症の原因は必ずしも1つということでなく、それらの悪化要因をひとつひとつ対策をとる必要があるということになります。

この点を踏まえて治療方法をご紹介します。

  • シャンプー療法
  • 食餌療法
  • 抗真菌薬や抗生物質、かゆみ止めといった内服薬
  • 体質の改善

まず、シャンプー療法は脂漏症と向き合う上で非常に重要なケアのひとつです。皮脂が過剰で、しかもそこに他の病原体が好んで増殖するわけですので、余分な皮脂は取り除く必要があるわけです。

一般に脂漏症の場合、べたつきが強いため一般のペット用シャンプーでは十分に皮脂を洗い流せないことがあります。皮脂を取り除く作用が強く、角質を整えるための余分な角質を溶解するシャンプーを必要に応じ使用することとなります。

また、マラセチアの増殖が著しい場合は、抗真菌薬の含まれたシャンプーも併用します。一般に脂漏症の犬にシャンプーを行う場合は、多い場合週に2回といった頻度となることもあります。皮脂が多いから保湿は不要かといえばそうではありません。皮膚の保湿は角質の状態を整えることで皮膚の適切な防御機能を作り出すことにつながります。

脂漏症の性質や、個体差によってシャンプー療法に差が生じることがあります。かかりつけの獣医師の指示に従ってシャンプーを行いましょう。

表皮にマラセチアや細菌が存在する場合は、抗真菌薬や抗生物質を使います。長期にわたって服用するケースもありますが、その際は原因菌の特定と原因菌に対する適切な薬が何かを調べるための検査が必要となります。

脂漏症はかゆみを伴います。かゆみによって引っ掻いてできた傷から病原体が増殖することもありますので、かゆみを軽減させる対策も必要となります。かゆみに合わせて種類や投与量を調整します。

皮膚の健康を体の内部から作り出す点も見逃せません。良質な食事を摂ることで、皮膚に必要なビタミンやミネラルを取り入れ、逆にアレルギーを生じる恐れのある食物や添加物は取り入れないように配慮しましょう。

食事で十分に補えないものについては、サプリメントを使用することも良いかもしれません。とくにω-3やω-6といった必須脂肪酸や免疫力を調節するタイプのものは重宝します。

ホルモン分泌異常が関連している場合は、そちらに対しても併せて治療が必要となります。いずれにせよ治療は長期にわたることが多いため、獣医師の指示に従いその状に応じ適切な対応をしていきましょう。

脂漏症のときに気をつけたいこと

脂漏症のケアを行う場合、シャンプーはご家庭で行っていただくうえで症状に改善につなげられるかという重要な位置づけになります。そして、脂漏症でない犬に比べてシャンプーの頻度も非常に多くなり、おうちの方にとって大きな負担となることがあります。

しかもシャンプー療法はその方法にもコツがあります。シャンプー剤にもよりますが、液剤を数分間しっかりとなじませる、シャンプー後の乾燥は高温でドライヤーを使用しない、といったものがあります。脂漏症の場合、シャンプーをしてもすぐに皮脂が分泌し、独特のにおいを発する傾向にあります。決められた頻度でシャンプーをしましょう。

また、皮膚に過剰な刺激を加えるとかゆみを生じます。そのため、かゆみをできるだけ生じさせないような適切な湿度・温度管理を行い、快適な生活環境を整えてみましょう。

何らかのアレルギーを持っていることもありますので、できるだけアレルギーの原因となるものとの接触は控える必要があります。これはノミといった寄生虫をはじめ、ハウスダスト、食物アレルギーなども影響することがあります。愛犬のアレルギーの有無をチェックすることも時として重要です。できうるだけ皮膚を清潔に保つように努めましょう。

こんなことで脂漏症がよくなったワンちゃん

脂漏症の症状改善のためにシャンプーや内服を用いることは必要ですし、重要な要素です。ただ、からだの内面から生じる要因が改善の大きなカギとなっていると考えられます。

体の外側から皮脂や病原体のコントロールを行っていきながら、からだの中から皮膚の状態を整える対策を積極的に行うと改善に導くことが出来ます。

皮膚の健康な構造を作り出すための脂肪酸、健康な皮膚細胞を維持するために必要なビタミンやミネラル、そしてアレルギーをはじめとした免疫のバランスを整えることにも注力してみるとよいかもしれません。

脂漏症に限った話ではありませんが、とりわけ動物の皮膚病は体の外から、あるいは中からと多方向から改善に向けたアプローチを行うことが成功への近道となります。

犬の脂漏症のまとめ

脂漏症対策としてできること、予防や日ごろのケアのアドバイス

犬の脂漏症は犬種や体質が関連していることが多く、しっかり対策をとっていても発症してしまうことがあります。とりわけ好発犬種と言われているわんちゃんたちは、日頃より皮膚を清潔に保つこと、良質な食事を摂ることなどが重要なポイントとなります。

脂漏症と診断された場合も、適切なケアを行うことで症状の改善につながることが出来、愛犬の身体的、精神的なストレスを軽減できます。確立された予防法はありませんが、健康的な生活を心がけることが陰ながら良い影響を与えるといっても過言ではありません。

参考文献

ジェネラリストのための小動物皮膚科診療 長谷川篤彦監修 学窓社

獣医臨床皮膚科学OPEN GATE 中島尚志著 インターズー

執筆者:増田国充先生

経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院

所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員