激しい痒みと皮膚の炎症を起こす犬のアトピー性皮膚炎【ペットアドバイザー執筆】

犬のアトピー性皮膚炎について

執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

元動物看護士・ペットアドバイザー

疾患の概要

アトピー性皮膚炎は、アレルギーの原因となる物質に過敏に反応しやすい犬が起こす、アレルギー性の皮膚炎のことを言います。アレルギー物質はその個体によって反応が異なりますが、主に生活環境の中に原因があります。アレルギー物質を吸い込むか接触によって体内に入れてしまうと、アレルギー反応が現れます。

特に若齢の犬に多くみられるもので、命に関わる危険は低いですが、激しいかゆみは犬のストレスにもなるため、QOL(生活の質)が下がる原因にもなります。飼い主も毎日気を遣い過敏にならざるを得ません。双方のストレスを軽減して生活の質を保つためにも、しっかりとしたケアが必要だと言えます。

なりやすいとされる犬種は
・ミニチュアダックスフンド
・トイプードル
・パグ
・シーズー
・ウエストハイランドホワイトテリア
・ブルドッグ
・ダルメシアン
・コッカースパニエル
・柴犬
と言われています。

オス・メスでの発症の差はありません。暖かくなる春夏に症状が悪化しやすくなり、秋冬に落ち着く「季節性」であることが知られています。

症状

アトピー性皮膚炎の代表的な症状は以下の2つです。
・激しいかゆみ
・皮膚の炎症、赤み

この2つが特に以下の場所に多くみられます。
・目の周り
・耳
・マズル(鼻の周辺)
・脇の下
・腹部
・鼠径部
・四肢の先端全体(特に指の間)
・肛門周辺
これらのような皮膚の薄い部分に炎症が起きやすい傾向があります。

症状は以下のように進んでいきます。

①初期症状

初期の段階では、しきりに耳や腹部を掻くようになり、足の先端をなめたりかんだりしてかゆみを紛らわそうとします。

②中期症状

かゆみが増して掻きだすと、皮膚がますます荒れるようになります。被毛が抜け、何度も掻くことで皮膚が黒ずんできます。次第に皮膚の水分が少なくなり、被毛がパサパサして乾燥したり、ひっかき傷ができやすくなります。

耳も足が届くため積極的に掻くようになりますが、掻くことで耳の疾患である外耳炎や耳血腫にもなりやすくなります。目の周りが悪化している場合は、眼結膜炎にもなりやすくなりますので、二次症状は多岐にわたります。

③さらに悪化

さらに悪化してくると、この状態が全身に広がって免疫力が下がり、二次感染を起こす可能性が高くなります。脂漏症や膿皮症などの二次的な皮膚炎を引き起こし、あきらかに普段と様子が違ってきます。
この段階になる前に早めに気付いて対処するのが早期治療のポイントとなります。

原因

アトピー性皮膚炎は、アトピーの元となる物質を吸い込み、体内に入り込んで症状が起こります。アレルゲンとなる物質には以下のようなものがあります。
・ハウスダスト(ヤケヒョウダニやコナヒョウダニ)
・花粉(スギやヨモギなど)
・カビの胞子(数種類の真菌)

これらの物質が体内に入り、元々持っている免疫がそれに過剰に反応することでアレルギー症状が起きます。これらのどれに反応するかは個体によって様々で、詳しい検査が必要となります。

犬は本来、人間よりも皮膚が薄く、皮膚の保護のために被毛が生えています。しかし毛や皮膚の異常により皮膚自体が薄くなっていたり、皮膚のバリア機能が低下していたりすると、アレルギー物質が体内に入り込みやすくなります。そのため呼吸による体内への侵入だけが原因ではなく、皮膚の不調から発症することもあります。

保湿やバリア機能の改善をおこなって、見た目の美しさだけでなく、皮膚を正しく保護することも重要なお手入れのひとつです。まれに遺伝性のものもありますので、どんなに生活環境や体調管理に気を付けていても、未然に防ぐのは難しいとされています。

治療法

検査

アトピー性皮膚炎の検査は、アトピー症状かどうかの確認から行います。
強いかゆみを伴う症状はアトピーだけではありません。たとえば以下の病気はアトピーによく似てはいますが違うものです。
・ニキビダニ症
・膿皮症
・マラセチア性皮膚炎
・疥癬
・ノミアレルギー
・食物アレルギー

これらの病気は、治療をおこなえばいずれ「治る病気」です。しかしアトピー性皮膚炎は治療を休むと悪化する「治らない病気」なのです。治療方法もそれぞれ違ってきますので、上記の疾患とは異なる確実な「アトピー性皮膚炎」であると認められなければ治療を始めることができないのです。

①顕微鏡検査
被毛や皮膚の一部を顕微鏡で拡大して観察する検査です。真菌やニキビダニ、疥癬などが被毛についていないか目視で確認を行います。またガラスプレートを病変した部分にこすりつけて、それを専用の染色液で染めて細菌の有無を確認します。これにより何が原因物質となっているかを特定します。

血液検査
◆ホルモン検査
ホルモン関連の疾患かどうかを確認します。これにより違う病気が判明し、アトピー性皮膚炎ではないことが分かります。除外のための検査です。

◆アレルゲン特異的IgE検査
アレルギー物質を特定するための重要な検査方法です。こちらでは、血液中の血清がどの物質に反応するかを見極めます。

アレルゲンが体内に侵入するとIgEと呼ばれる物質が作られますが、このIgEが異常反応を起こして必要のないものにまで過剰に作られてしまうことで、アレルギー反応が起こります。このIgEが血中でどの程度作られているか、どの項目に反応するかでアレルゲンの特定を行います。

特定できるアレルギー物質は40種類程度。以下がその一例です。
・ヤケヒョウダニ(ハウスダスト)
・コナヒョウダニ(ハウスダスト)
・アスペルギルス(カビの一種)
・ニホンスギ(花粉)
・オオブタクサ(花粉)
・ホソムギ(花粉)
・牛肉(食物)
・小麦(食物)

アトピー性皮膚炎は食物アレルギーではないため、どの項目に反応するかが重要です。もし食物に反応があった場合は、アトピー性皮膚炎でないと分かるだけでなく、食生活から除外するものも特定できます。反応するものは一つとは限りませんので、試す項目が多い方が有効です。

③食物アレルギー検査

アレルゲン除外食を試し、食餌の中にアレルギー物質が含まれていないか確認をおこないます。上記のアレルゲン特異的IgE検査で食物と判明している場合はおこないませんが、食物アレルギーが疑われる場合は、病院によって行う場合もあります。

治療

この疾患は、基本的には炎症を抑えるためのお薬による治療が主軸となりますが、以下の3方向からの治療が一般的です。
①薬剤による治療
②塗り薬や保湿剤、薬用シャンプーによる肌免疫の正常化
③アレルゲンを生活環境から除去し、原因物質との接触を減少させる

ひとつずつ解説していきます。

1.薬剤による治療について

薬物治療では、有効性の高いステロイド療法をおこないます。アトピー性皮膚炎は体質そのものが原因となる疾患ですが、薬物療法は体質改善ではなく、あくまで対症療法となります。そのため投薬をやめてしまうと症状がぶり返してしまいます。

長期投与が必要となりますが、副作用も多く起こっています。たとえば医原性のクッシング症候群がその代表例です。また肝障害や胃腸障害などもみられますので、場合によっては投薬をゆるめる場合もあります。

皮膚症状が落ち着いてきたら、インターフェロン療法に移行することがあります。これは注射による投薬で、副作用のリスクの低いものです。「免疫抑制剤療法」とも呼ばれます。状態の改善した皮膚を現状維持するための治療となります。

2.肌免疫の正常化

皮膚の状態が悪く被毛や皮膚本来の機能が低下しているため、皮膚に付着したアレルゲンを洗い流したり、保湿をおこなって向上させるのが目的です。薬用シャンプーで皮膚を整えたり、保湿剤を塗ったりして炎症を抑え、アレルゲンが体内に入り込むのを抑えます。局所的な場合はスプレー剤での治療も可能です。これにより投薬量を抑え維持を簡単にできますので、体への負担も軽減することができます。

3.アレルゲンとの接触を減らす

アレルギー物質が特定されていれば、その原因との接触を減らすことで反応を抑え、体の負担を軽減します。ハウスダストの場合は徹底的な清掃や空気清浄機の導入などで環境改善をおこないます。散歩なども、アレルゲンによっては時間帯や場所を考慮しなければなりません。住環境は簡単に変えることができませんので、飼い主にとっても負担の大きいものとなります。

その他の治療法

今ある症状を緩和する「対症療法」の他に、体質改善をおこなう「減感作療法」という免疫療法があります。アレルゲンを少量ずつ繰り返し体内に注入していく療法で、体内に入った物質に反応してIgE抗体が作られ、体が反応しにくくなるようにしていくのが狙いです。

1週間おきに5回もしくは6回の投薬を皮下注射でおこないます。この療法の副作用やリスクはないとは言えません。またアレルゲンによって利用できない場合もありますが、現在の治療法では安全性も高まり、アトピー性皮膚炎が治癒できる唯一の方法だと期待されています。

発症してしまうと完治は難しい疾患です。症状をやわらげ、なるべくぶり返さないように維持しなくてはなりません。症状がひどくならないように、うまくお付き合いしていくような生活を送ることになります。

予防法

アトピー性皮膚炎は予防をする事が難しい病気です。ですが普段からアレルゲンが溜まらないように生活環境を清潔にしておくことが大切です。また皮膚炎を起こさないように被毛や皮膚の正しいお手入れをすることで、肌の免疫機能を整えることができます。

アレルギー検査をあらかじめ受けておくのが理想ですが、アレルギー項目はたくさんあり、費用もかかるため、アトピー性皮膚炎が疑われてから検査をするのが一般的です。効果的な予防法はいまのところないとされていますので、早期発見がカギとなるでしょう。

遺伝性の皮膚炎もありますので、もし親犬の状態を確認できるならしておいた方がいいと言えます。ペットショップなどでは分かりにくいですが、ブリーダーからの情報が手に入れられるなら聞いておきましょう。

犬のアトピー性皮膚炎のまとめ

アトピー性皮膚炎は、日頃のまめなお手入れで早期発見できる皮膚疾患です。一度治療が始まってしまうと、犬はストレスを抱え触られることすら嫌がるかもしれません。ですから、普段からお手入れに慣れさせておくのも良い手だと言えます。

普段からのスキンシップを多くし、ボディチェックをまめにおこなっておきましょう。また異常があれば自分で判断せず、すぐに獣医師の診断を受けましょう。

執筆者情報:大柴淑子(おおしばしゅくこ)

webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。

専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。