犬のマラセチア皮膚炎は脂漏症やアトピー性皮膚炎が原因?【小動物看護士執筆】

犬のマラセチア皮膚炎について

執筆者:nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士

皮膚の働きと皮膚病

皮膚は、犬の体の最も外側の部分を構成する組織で、全体重の約12%を占めています。皮膚の最も大きな役割は『皮膚バリア機能』です。これは、体外からの異物の侵入を防ぎ、体内から必要なものが漏出しないように防ぐという機能です。

他にも、皮膚は温度や痛み、かゆみなどを感じる感覚器としての役割や、体温調節、体型保持、免疫機能の調整、ビタミンの合成といった、多彩な役割を担っています。

内因性であれ外因性であれ、何らかの原因によりこの皮膚バリア機能が低下してしまうと、皮膚病が発症してしまいます。

皮膚病の症状には、皮膚が赤くなる、ブツブツができる、丘のような盛り上がりができる、水ぶくれができる、黒くなる、脱毛する、フケが多くなる、皮膚がえぐれる、かさぶたができる、皮膚が厚くなる等、さまざまありますが、犬に対してかなりのストレスをもたらすのが、かゆみではないでしょうか。

筆者自身もアトピー性皮膚炎に悩まされた経験がありますので、夜も眠れないかゆさ、頭ではわかっていても搔きむしらずにはいられないかゆみのつらさは忘れられません。

皮膚病の中でも、このかゆみを伴う代表的なものに、感染性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎があります。今回は、感染性皮膚炎の中からマラセチア皮膚炎を取り上げて説明していきます。

犬のマラセチア皮膚炎とは

マラセチア皮膚炎の原因微生物は、マラセチアです。マラセチアとは、皮膚の表層に常に存在している常在微生物の一種である酵母様の真菌で、主に皮脂を利用して生活しています。原因菌が外の環境から感染する場合は、感染ルートをみつけ、そのルートを断つことで再発を防ぐことが可能です。

しかし、マラセチアは常在微生物であるため、皮膚から完全に排除してしまうことはできません。そのため、マラセチアが増殖してしまう原因をみつけ、その原因に対する適切な対処を行わなければ完治を望めません。

前述の通り、マラセチアは皮脂を利用して生活しているため、脂漏症のように皮脂が過剰な状態で増殖する傾向にあります。他にも、高温多湿な環境、不適切なスキンケア、皮膚バリア機能の低下、アレルギー、免疫力の低下、バランスの悪い食事なども、マラセチアが増殖する要因になり得ます。マラセチアが増殖すると、犬の免疫機構によりアレルギー反応が生じます。

その結果、皮膚炎やかゆみを生じるのです。特に、アトピー性皮膚炎を併発している犬の場合は、マラセチアに対するアレルギー反応を起こしやすいので、注意が必要です。

犬のマラセチア皮膚炎の原因

犬が皮膚炎を起こし、そこにマラセチアの増殖が認められた場合、マラセチアが増殖した原因を突き止める必要があります。前述の通り、マラセチア増殖の原因として主にあげられるのが、脂漏症です。また、アトピー性皮膚炎が背景にある場合も多いため、まずは脂漏症とアトピー性皮膚炎について調べることになります。

週に1回以上シャンプーをしないと皮膚のフケやベタつきを抑えられないという場合は、脂漏症が疑われます。脂漏症の原因として、好発犬種の場合は遺伝的要因が考えられます。

他にも、代謝を管理するホルモン、特に甲状腺ホルモンのバランスが悪化すると脂漏症に罹るリスクが高まります。皮膚の細胞が徐々に分化していき、最終的には死んでフケとなるまでの時間をターンオーバーと言いますが、脂漏症になると、犬の場合通常3週間であるターンオーバーが1週間程に短縮されてしまい、フケが過剰に生じるという症状がみられます。

マラセチアの管理のために、週に2回以上のシャンプーを行っているにも関わらず、皮膚の症状が改善しないという場合は、背景にアトピー性皮膚炎の関与が疑われます。

アトピー性皮膚炎は、ハウスダストや花粉などの環境アレルゲンに対する過敏なアレルギー反応が原因となる皮膚炎で、好発犬種の場合は遺伝的要因が考えられます。

犬の場合、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが併発しやすいのが特徴であるため、その観点で食餌内容を確認する必要もあります。また、ストレスがアトピー性皮膚炎を悪化させる場合もあり、犬のアトピー性皮膚炎はさまざまな要因を確認し、多面的なスキンケアが必要となります。

マラセチアの増殖が認められるようになった年齢によって、マラセチアの増殖要因を、次のように推測することができます。

3〜6ヶ月齢:遺伝的要因により脂漏症がある

3歳未満  :アトピー性皮膚炎が背景にある

中高齢   :代謝異常などが原因の脂漏症

他にも、高温多湿な環境、不適切なスキンケア、皮膚バリア機能の低下、アレルギー、免疫力の低下、バランスの悪い食餌なども、マラセチアが増殖する原因になりますので、併せて対策が必要です。

マラセチア皮膚炎になりやすい犬種

今まで述べてきた通り、脂漏症やアトピー性皮膚炎に罹りやすい犬種が、マラセチアの感染を起こしやすい犬種です。

脂漏症に罹りやすい犬種は、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーなどです。

アトピー性皮膚炎に罹りやすい犬種は、柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール/ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリア、ワイヤーへアード・フォックス・テリアなどです。

特に注意したいのは、脂漏症とアトピー性皮膚炎の双方に罹りやすいウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアとシー・ズーです。この2犬種は、マラセチア皮膚炎やマラセチア外耳炎の感染には十分な注意が必要です。

マラセチア皮膚炎の治療方法

マラセチア皮膚炎の原因菌であるマラセチアの増殖を抑えるためには、抗真菌薬が有効です。しかし前述の通り、マラセチアそのものは常に表皮に存在する常在微生物ですから、たとえ抗真菌薬によりマラセチアの増殖を抑え、症状が軽くなったとしても、それは一時的なものに過ぎません。

なぜマラセチアが増殖してしまうのかという、その犬が持っている固有の原因を突き止め、その原因に対して必要な治療を行うことが大切です。そのためにも、必ず動物病院で診てもらい、その犬固有の原因を確認してもらい、適した治療とケアを行うようにしましょう。

基本的には、その犬固有の原因にあわせて、脂漏症やアトピー性皮膚炎に準じたスキンケアを実施することがメインの対応になります。主な項目を挙げると下記のようになります。

○洗浄・入浴・クレンジング

マラセチアを除去しながら、クレンジング剤や入浴、シャンプーなどでスキンケアを行います。脂漏症が背景にある場合は、硫黄泉や重曹泉による入浴が有用です。シャンプーは、皮脂汚れをしっかり除去できる、高級アルコール系界面活性剤、角質溶解剤、脱脂剤などを含んだシャンプーを用います。

アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、炭酸泉、食塩泉、保湿浴、マイクロバブル浴などが有用です。シャンプーは、皮膚バリア機能障害の可能性を考慮する必要があるため、アミノ酸系界面活性剤および保湿剤配合シャンプーから導入していきます。

○必要に応じた抗真菌療法

マラセチアへの抗菌作用が期待できるのは、クロルヘキシジン、ミコナゾール、ピロクトンオラミンなどです。2%クロルヘキシジン・ミコナゾールを含有した洗浄剤が、マラセチア皮膚炎に高い効果を出すと報告されています。

ただし、抗菌作用のある洗浄剤による洗浄は、マラセチアの除去が達成されるまでの期間に限定して考えるべきでしょう。あくまでも、ベースのスキンケアは、マラセチアの増殖要因である脂漏症やアトピー性皮膚炎に準じた洗浄にし、マラセチアが増殖した場合にのみ抗菌作用のある洗浄剤を併用することが、長期的な観点では成功の秘訣と言えます。

○洗浄後の保湿

洗浄後は、保湿を行いましょう。脂漏症が背景にあり、多くのフケがあったり皮膚がゴワゴワしていたりする場合は、角質軟化作用のある尿素を含んだ保湿剤が有用です。

アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、セラミド関連物質の補充が大切で、洗浄後の保湿だけではなく、場合によっては日常的な適応が必要な場合もあります。

スキンケアと併用し、下記のような対応も有効です。

○適切な栄養管理

その犬の年齢にあった食餌内容にします。糖質や脂質の過剰摂取が見られる傾向が多いようですが、栄養バランスがそれぞれの年齢層に見合った適切なものになるよう、管理・変更が必要です。

○適切な温度調節

マラセチアは高温多湿な環境を好みます。そのため、高温多湿な環境になる夏場でも、室温は25〜28℃、湿度は60〜70%で維持できるように環境を管理しましょう。

○アレルゲンの排除

アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、環境中に存在するアレルゲンを排除します。そのためには、清掃や犬への服の着用など、その犬に適した配慮を行いましょう。

○免疫力の向上支援

その他、犬の免疫力を高めるための支援として、犬用のサプリメントを活用するのも、有用な手段です。サプリメントを選ぶ際には、学会での発表や複数の論文を出しているといった指標により、信頼できる会社の製品を選んであげましょう。

マラセチア皮膚炎のときに気をつけたいこと

マラセチア皮膚炎の主となる対応は、スキンケアです。マラセチア皮膚炎の背景に合わせたスキンケアが必要になるため、動物病院と連携し、正しい入浴剤やシャンプー等を選択し、適切な頻度できちんとケアしてあげましょう。

シャンプーや入浴による洗浄の頻度は、導入時は週に2回から始め、マラセチアが正しく管理できる状態になったら、5〜7日に1回程度に頻度を落としていきます。

マラセチアに対しては抗真菌薬、また背景となる脂漏症やアトピー性皮膚炎に対してはステロイドや抗アレルギー剤が使用される場合もありますが、基本的には、前述のスキンケアを中心とした対応がメインの対応となります。

しかし、若齢から発症するアトピー性皮膚炎や脂漏症が背景にある場合は、完治がとても難しいため、生涯にわたってケアしていく必要があることを知っておきましょう。

犬のマラセチア皮膚炎のまとめ

マラセチア皮膚炎にならないために、予防や日頃のケアの3つのポイント

マラセチア皮膚炎にならないために必要な、日頃のケアや予防として大切な3つのポイントを下記にまとめます。これらに注意しながら、日常的な愛犬へのスキンケアを行い、愛犬を不要なストレスから解放してあげられるようにしましょう。

①健康な状態の把握と日々の観察

健康な状態の時の様子を把握しておくことが、一番の基本事項です。健康な時の毛並みや皮膚の色や状態、普段のしぐさなどを、しっかりと把握しておきましょう。

少しでも変化が見られたら、すぐにおかしいなと思い、注意して様子を観察し、早めに動物病院で診察を受けることが大切です。変化とは、毛艶が悪い、皮膚が赤い、脱毛している、フケが多い、しきりに同じ場所を舐めたり掻いたりする等です。

②外側からのスキンケア

既に犬と一緒に暮らしている方は実践済みだと思いますが、犬には下記に挙げるような外側からのスキンケアによる日常的な管理が重要です。

◆洗浄
シャンプーや入浴などで、皮膚や被毛の汚れを落とします

◆保湿
洗浄後に保湿剤等を塗り、皮膚の水分保持力を高めて水分喪失を防ぎます。

◆保護
外用剤や服の着用等により環境に存在するさまざまな刺激から保護します。

◆賦活(ふかつ)
マッサージ、ブラッシング等により、皮膚本来の機能を高めます。

③内側からのスキンケア

スキンケアには、内側からのケアも含まれます。犬に必要な内側からのスキンケアを、下記に挙げます。

○栄養管理
年齢層に合わせた栄養バランスの食餌を与え、皮膚の構成要素を維持します。

○生活改善
活動時間、睡眠時間などを規則正しくさせ、ライフサイクルを維持させます。

○環境管理
衛生的な寝床の提供、適切な散歩コースと散歩時間の調整、アレルゲンの排除等を行います。

○ストレスケア
愛犬と飼い主さんの絆を深めてストレスを緩和させる。

*参考図書、文献

・『獣医皮膚科専門医が教える 犬のスキンケアパーフェクトガイド』interzoo

・『イラストでみる 犬の病気』講談社

・『トリマーのための ベーシック獣医学』ペットライフ社

・『動物臨床に役立つやさしい免疫学』ファームプレス

nicosuke-pko先生

小動物看護士、小動物介護士、ペット飼育管理士農学部畜産学科卒業後、総合電機メーカーにて農業関係のシステム開発等に携わる。飼い猫の進行性脳疾患発症を機に退職。

 小動物関連の資格を取得し、犬や猫の健康管理を中心とした記事を執筆しながら飼い猫の看病を中心とした生活を送っている。自分の経験や習得した知識を元に執筆した記事を通して、より多くの方の犬や猫との幸せな暮らしに役立ちたいと願っている。